第六章

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第六章

 梓豪、シスイ、ハギヤの順で外階段に飛び移った。上階のベランダや渡り廊下で光はほとんど遮られている。  梓豪は先程より明らかに変則的なルート選びをしていた。外階段の手すりから隣の棟の屋上に飛び降り、配管でできた橋を渡って、一度も地面に降りることなく街を突っ切っていく。十分は目も回るような道のりを行き、とうとう梓豪は階段をひたすら下り始めた。  下りきったところに、集合住宅でよく見られる鈍色の郵便ポストが升目を作っていた。階段脇の出口から日の光が漏れている。階段を上った階数と下った階数はどう考えても違っていたのに、外に出たときには地面を踏みしめていた。  闇に慣れた目に、太陽光が突き刺さる。手をかざして光に目を細めつつ、周りを見渡したハギヤは驚いた。目の前にはジャングルシムにぶらんこ、滑り台など、極彩色の遊具があった。何人かの子供たちが、のどかに遊んでいる。  毒気の抜かれる光景だった。 「あれってもしかして、公園……?」 「公園だ。学校もあるぞ」  梓豪は何でもないことのように答えた。  子供たちが、こちらをきょとんとした顔で見つめている。何人かが梓豪を指差してきゃあきゃあ騒いでいる。  児童公園は、三方向を建物に囲まれた広場の一角に位置していた。広場といっても決して広くはなく、ここ一帯の他の通りに比べれば広いほうというだけだが、上空に物がないので平穏な陽だまりができており、老若男女がのんびりと行き来している。  三人は、広場を囲む建物のうちの一棟から出てきたところだった。梓豪は建物から離れ、公園を横切りながら言う。 「雲嵐広場(ワンラーンクォンツェン)まで突っ切ってきた。ここまで来れば大丈夫だと思う」  広場はアルファベットのTの形をしていて、公園はTの底の部分にある。縦の線を下から上へなぞるように歩くと、左右に道が別れていた。右が袋小路で左が他の広場へと続く道だ。梓豪が迷いない足取りで進んでいくので、二人もついていく。  穏やかな『日常』の光景を見ていると、先程の異界が夢幻か何かかと勘違いしそうになる。しかし広場からは、細い路地が何本も伸びていて、それぞれが薄暗い非日常空間へ続いている。異界は去ってなどいないのだと、教えている。  目の前に広がるのどかな『日常』の光景こそが、『非日常』の魔窟の体内、それもその心臓部の光景なのだ。  シスイが歩きながら梓豪に聞く。 「自警団の本部は中央部から近いのか」  ハギヤははっとした。そもそもの目的は、自警団の本部に行ってフィオナの行方を尋ねることである。  梓豪は胸をそらした。 「すぐ目の前だ」  二人は眼前の建物を見上げた。
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