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梓豪は顔を上げる。
「尊師」
「三週間ぶりくらいですね、どうしたんですか? 大きな事件は起きていませんよ」
灰色のジャケットを着た初老の男が、笑みを浮かべて歩いてくる。男と梓豪は握手を交わした。
「このへんで見かけない人物を見たって情報が来てないか聞きたいんだ、尊師」
「おや、どんな方でしょう」
そこまで言ってから、男は自分の方を見ているハギヤとシスイに気づき、にっこりと笑いかけてジェイコブと名乗った。牧師だという。
梓豪は身振りを交えながら、ジェイコブ牧師に状況を説明した。
「三十くらいの女なんだ。栗色の長髪で、背は俺よりちょっと高い。フィオナっていうんだが……」
牧師がうなずきながら聞いている。
ハギヤが様子を眺めていると、突然彼の携帯端末が震えた。画面を見て通話をかけてきた相手を確認する。オリヴァーだ。
ハギヤが三人から離れ、建物を出ながら応答するや否や、噛み付くように叫ぶオリヴァーの英語が飛び出した。
『おい、今どこにいる!』
「雲嵐広場だけど。教会のあるところ」
走りながら喋っているらしく、オリヴァーの息遣いはどんどん荒くなっている。
『ちょうどいい、手を貸せ!』
「どうしたんだ?」
オリヴァーは少し言いよどんだ。気を取り直して言う。
『……ある男を尾行していたんだが、気づかれた。今追跡している。挟撃したいから、俺が今から言う場所に向かってくれ!』
そう言ってから、慌てて声を抑えて付け足す。
『梓豪は今近くにいるか?』
「いない」
『絶対に連れてくるな。理由は今説明している暇はない。絶対にお前ら二人だけで来い』
「梓豪が同行できないなら、ややこしい場所には行けないよ」
『わかってる、わかりやすい場所を指定してやるよ!』
ハギヤはシスイを手招きしながら聞く。
「誰を尾行してたんだ?」
オリヴァーは唾を飲み込んでから、吐き捨てるように答えた。
『フィオナを――監禁してるやつだ!』
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