第六章

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 シスイが建物から出てくると、ハギヤは手短に状況を説明した。それから牧師と話している梓豪に向かって叫ぶ。 「梓豪、フィオナを探していた別口から連絡が来た。今からちょっと行ってくる。落ち着いたらすぐ戻る」  梓豪は携帯端末を取り出して時間を見ながら、軽く手を振った。 「十分以内に戻れなければ、住民総出で探し出してやるからな」 「わかったよ」  ハギヤは苦笑した。一時でも単独行動を許してもらえるのは、信頼の証とみていいものだろうか。  広場から出て通路に入り、再び薄闇の世界に舞い戻る。二人が目的地に行ってみると、双子のように建物が並んでいた。アパートとして使われている場所なのか、各階層の緑色の扉には数字で番号が打ってある。  オリヴァーは、建物を繋ぐ渡り廊下に誘い込むつもりらしい。  渡り廊下のある二階まで行くと、オリヴァーの言ったように、通路の脇に『B棟へ』と書いてあった。ということは、こちらは待ち合わせ場所であるA棟側だ。  二人はうなずきあい、それぞれ通路の両脇に背中をつけて様子を伺う。  二十メートルほどの通路にまだ人影はない。蛍光灯の周りに蛾が飛び、ばちばちと断続的に音を立てる。  突然、近くで銃声が二発聞こえた。  二人は顔を見合わせる。オリヴァーが銃撃戦を仕掛けたか、あるいは仕掛けられたか?  援護に行くにしろ、場所がわからない。通路を渡ったすぐそこか?  少し遅れて、通路の向こうから足音が聞こえてきた。革靴がコンクリートを叩く音がどんどん近づいてくる。  シスイがリボルバーをしっかりと構え、壁から飛び出して叫んだ。 「止まれ!」  足音が止まる。  ハギヤも短刀を手に、壁から顔を出して通路を走ってきた人物を見た。 「……え?」  ハギヤの口から、声が漏れた。  リボルバーを下ろしはしないものの、シスイからも動揺している様子が伝わってくる。  通路を走ってきたのは、スーツ姿の童顔気味の男――徳華だった。  徳華は息を乱しながらシスイを睨んでいる。後ずさろうとしたが、自分が走ってきたB棟の方から足音が追ってきたので、立ち止まった。  シスイが呟く。 「……オリヴァーが追っていたのは、徳華だったのか?」  確かにそれならば、梓豪を連れてくるなと言っていたのも納得がいく。梓豪が敬愛している徳華に、ハギヤとシスイが銃を向けているところなど見られれば、梓豪は激昂して襲いかかってくるに違いない。  徳華を挟み撃ちにする足音が近づいてくる。シスイはまたも言った。 「徳華がフィオナを監禁しているというのなら、なぜ梓豪にもフィオナを探させた?」  通路の向こうに、人影が現れた。  オリヴァーではない。  梓豪だった。
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