21人が本棚に入れています
本棚に追加
「――――謀られた」
シスイが短く言った。銃を下ろしたが、すでに梓豪には見られた後だろう。
梓豪は目の前の光景を見ると、唖然として立ち止まった。徳華が目だけで振り向いて叫ぶ。
「梓豪、何で来た」
「炎哥から……阿爸が危ないから向かってくれって」
梓豪は放心した様子で答えたが、自分で言った言葉を自分で聞いて、状況を呑み込んだようだった。
「……逃げてくれ、阿爸。俺は俺の仕事をする」
低い声で告げ、一歩ずつ踏みしめるように前に出る。
ハギヤとシスイは止まったまま、徳華と梓豪を見ている。
梓豪とすれ違うと、徳華はハギヤとシスイを一瞥した。彼らが銃を下ろしているのを確認すると、徳華はB棟の階段を駆け上がり、姿を消した。
梓豪から、震える声が漏れた。
「何で、お前らが……」
ハギヤが首を横に振った。
「違う、梓豪、落ち着いてくれ」
しかし、梓豪は止まらなかった。
「言っただろ。俺は阿爸を尊敬しているって」
シスイが険しい顔で梓豪を見つめている。梓豪の歩調が段々と早くなる。
「聞いてたよな、お前ら」
ハギヤは短刀の柄を強く握りしめる。梓豪の顔が痛みをこらえるように歪んだ。
「なんで……」
仲間だと思っていたのに――そう言わんばかりの表情が、ハギヤの胸を刺す。
昔、何度も見たことのある表情だった。
戦友の首に刃が食い込む、その刹那に貼り付いていた表情。怨恨の死顔。彼らの瞳に映る自分の血塗れの顔。
ハギヤは目の前が真っ暗になった。
「ハギヤ!」
切迫した声でシスイが叫ぶが、ハギヤは目を見開いたまま動かない。
梓豪が素早く銃を取り出し、ハギヤに照準を合わせる。
シスイは唇を引き結び、梓豪に向かって突進した。
最初のコメントを投稿しよう!