第六章

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「――――謀られた」  シスイが短く言った。銃を下ろしたが、すでに梓豪には見られた後だろう。  梓豪は目の前の光景を見ると、唖然として立ち止まった。徳華が目だけで振り向いて叫ぶ。 「梓豪、何で来た」 「炎哥から……阿爸が危ないから向かってくれって」  梓豪は放心した様子で答えたが、自分で言った言葉を自分で聞いて、状況を呑み込んだようだった。 「……逃げてくれ、阿爸。俺は俺の仕事をする」  低い声で告げ、一歩ずつ踏みしめるように前に出る。  ハギヤとシスイは止まったまま、徳華と梓豪を見ている。  梓豪とすれ違うと、徳華はハギヤとシスイを一瞥した。彼らが銃を下ろしているのを確認すると、徳華はB棟の階段を駆け上がり、姿を消した。  梓豪から、震える声が漏れた。 「何で、お前らが……」  ハギヤが首を横に振った。 「違う、梓豪、落ち着いてくれ」  しかし、梓豪は止まらなかった。 「言っただろ。俺は阿爸を尊敬しているって」  シスイが険しい顔で梓豪を見つめている。梓豪の歩調が段々と早くなる。 「聞いてたよな、お前ら」  ハギヤは短刀の柄を強く握りしめる。梓豪の顔が痛みをこらえるように歪んだ。 「なんで……」  仲間だと思っていたのに――そう言わんばかりの表情が、ハギヤの胸を刺す。  昔、何度も見たことのある表情だった。  戦友の首に刃が食い込む、その刹那に貼り付いていた表情。怨恨の死顔。彼らの瞳に映る自分の血塗れの顔。  ハギヤは目の前が真っ暗になった。 「ハギヤ!」  切迫した声でシスイが叫ぶが、ハギヤは目を見開いたまま動かない。  梓豪が素早く銃を取り出し、ハギヤに照準を合わせる。  シスイは唇を引き結び、梓豪に向かって突進した。
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