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第八章
同じような型の強化外骨格を使っていたと聞いて、梓豪の眉がぴくりと動いた。ハギヤの説明は続く。
「普通の強化外骨格は、使用者の身体が動くのに合わせて、機械が活動を補助し、筋肉をオーバーワークから守る素晴らしいものだ。多くの強化外骨格は、人体を守るために作られたものなんだ」
ハギヤの長い指が、梓豪の右腕を指す。
「けど、戦闘用に作られたその型だけは違う。ヒルガオ製によく似てるその型は、全然機能が違うんだ」
「ヒ……ドゥコー?」
聞き慣れない発音を、梓豪はたどたどしく繰り返す。
「ヒルガオ。日本語である花のことを指す言葉なんだけど、今は兵器開発会社の、ひいてはその社長の名前」
「兵器開発会社? 医療機器じゃないのか?」
梓豪の声に驚嘆が混じる。シスイがすかさず聞き返した。
「なぜそう思う」
梓豪は自分の右腕を見下ろした。
「組織がフィオナと取引して買っていたのは、アシストスーツだ。こういう商売をしていると、リハビリが必要になる奴も多い」
シスイは納得して、無言で首を縦に振った。アシストスーツは、パワーアシストスーツやロボットスーツなどとも呼ばれ、巷では強化外骨格と同一視されていることもある。
ただ、ハギヤとシスイのいた施設では、開発中の強化外骨格のことをアシストスーツとは呼ばなかったことから、二人は人体をヒルガオ社独自の方法で兵器利用するものを強化外骨格、リハビリや重労働において使われる他社製のものをアシストスーツと呼び分けている。そして、フィオナもそう考えてアシストスーツという言葉を使っていると思われた。
なぜならフィオナも、元ヒルガオ社の研究員だからだ。
「強化外骨格を作っているヒルガオ社の社長、昼顔陽子の考えは『ロボットを人間に近づけるより、人間をロボットに近づけたほうが早いんじゃないか?』というものだった」
ハギヤの話が再開され、梓豪は顔を上げた。
「一九〇〇年代の終わり頃に、戦争用にアンドロイドが作られ始めた。数十年が経った頃、戦闘用アンドロイドの開発は頭打ちになった。コストが馬鹿にならないのに、敵に研究されたりデータを盗まれたりすれば、動きのパターンをすぐ読まれ、撃破されてしまう。そこで昼顔陽子が考えたのが、子供を兵士として育て、兵器を持たせて戦わせたほうがいいんじゃないかということだった」
ただ、子供を産み育てるのにもコストはかかる。そこで昼顔陽子は、少しでもコストを節約するべく、兵器として使える人間を作りながら、彼らが用いる強化外骨格の開発も並行して行うことにした。
「昼顔陽子は、人間の潜在能力に以前から目をつけていた。人間の脳は、元々持っている筋力の百パーセントが日常の生活において発揮されないよう、普段から筋肉を制御している。それを意図的に引き出す事ができたら? 火事場の馬鹿力を任意に出せる存在がいたら? 兵器としては、この上なく使えるはずだ」
ハギヤの笑みに苦渋が混じる。話を聞きながら、梓豪の顔は少しずつ青くなっていた。
「そんな仮説の下で作られたヒルガオ製の強化外骨格は、筋肉を敢えてオーバーワークさせるんだ。人体の限界を越えた動きを引き出すために」
「……」
口を薄く開いたまま固まった梓豪に、ハギヤは真顔に戻って言い募る。
「きみはちゃんと聞いてくれないだろうから今まで黙ってたけど、今度はおれも言わせてもらう。それをもう使わないほうが良い。さもないと……」
その身をもって、二人は末路を知っていた。
「腕が壊れて、二度と動かなくなる」
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