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第十章
「誰が殺した?」
初めに声を発したのはシスイだった。ハギヤも続けて言う。
「徳華か、憂炎が先に発見して撃ち殺したか?」
二人に反して、梓豪が口を開くまでには間があった。昨日が初対面だったハギヤとシスイに比べ、梓豪の方がオリヴァーとの付き合いは長い。敵対の疑惑が浮上したときには冷静に対処していたが、突然死には流石に動揺が隠せないようだった。
息を長く吸い込んだ後、彼はようやく答えた。
「…………それなら報告があるはずだ。連絡はなかった」
シスイはくるりと振り向き、へたりこんでいるエミリーを見下ろした。
「銃声を聞いたか?」
呆けていた老婆は、シスイの鋭い眼光を浴びて肩をびくつかせた。小刻みに首を横に振る。シスイは間髪入れずに再び聞いた。
「離脱する人影は見たか? 足音は?」
「シスイ、ちょっと待とうよ。おばあちゃん、まだびっくりしてるから」
ハギヤが穏やかな口調でそっと宥めると、シスイは口をつぐんだ。
「……失礼した」
素直な謝罪に、梓豪が面食らった顔でシスイを見た。
女性はしばらく尊師に背中をさすられながら深呼吸を繰り返していたが、しばらくすると青白い顔をのろのろと上げて、何事か喋った。しかし訛りがきつすぎて、ハギヤにもシスイにも、何を言っているのか全くわからない。
梓豪でもわからなかったらしく、小声でジェイコブ牧師に聞いた。牧師は当惑した表情のまま、すぐに従った。
「銃声も聞いていないし、人影も見なかったと。この方は漢方を買いに行った帰りで、今日お客さんが来るのを思い出し、普段は通らない近道を通るところだったそうです」
またエミリーが口を開いた。ジェイコブ牧師が通訳する。
「家から出たときには、彼はいなかったとおっしゃっています」
ハギヤが両膝をつき、震えるエミリーに視線を合わせて、ゆっくりと聞いた。
「家を出たのはいつか、覚えていますか?」
「二時間ほど前だったそうです。おやつを食べてから出かけたからと」
「多謝」
ハギヤは微笑んで礼を言うと、立ち上がった。
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