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 場内が静かになった。  立呼び出しが土俵に上がり、白扇を広げる。 「ひがーしー、高麗山、こおーらいーざん。にいーしー、江斗露武、えとーろーおおふ」  呼び出しが声を切り、土俵を出る。入れ替わり、東西から力士が土俵に上がった。  ちょーん、拍子木の澄んだ音が響いた。  立行司、木村庄之助が土俵中央に進み出て、軍配を掲げる。 「片や、高麗山、こーらいざん。こなた、江斗露武、えとーろふ。この相撲一番にて、千秋楽にございます」  立行司が礼をする。  ちょーん、拍子木が打たれた。  おおおっ、場内がどよめいた。歓声と拍手が国技館の天井を揺さぶる。  東西の横綱が土俵で向かい合い、四股を踏んだ。共に足を高く上げ、ゆったりと足をおろす。 「東方、横綱、高麗山。東京都新宿区出身、藤原部屋。西方、横綱、江斗露武。北海道択捉島出身、久礼井部屋」  場内アナウンスが両横綱を紹介した。 『いよいよ、大相撲の本場所も千秋楽。しかも、優勝を決定する一番であります』  テレビの中継席でアナウンサーが声を高ぶらせた。 『片や、三場所連続休場から復帰した高麗山。片や、新横綱の江斗露武。共に十四戦全勝同士、この一番に優勝をかけます。ついに優勝回数を二十回の大台に乗せるか、高麗山。新横綱の場所で三度目の優勝なるか、江斗露武』  江斗露武は蹲踞の姿勢から、手を土俵に下ろす。  目を上げれば、高麗山が間近にいた。  ついに、ここまで来た・・・  江斗露武(えとろふ)・・・本名、ビクトル・ボリシコ・スタルヒンは胸が熱くなるのを感じた。
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