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 揺れる・・・ゆらゆら・・・体が揺れる。目が回っていた。 「ビクトル、しゃきっとしろよ」  兄が甲板から声をかけてきた。 「これくらいで腰を抜かしてちゃあ、次は船に乗せてやらんぞ」  操舵輪をにぎる父が苦言をこぼす。 「しっかりしなさい、お弁当を食べられないよ」  やさしい声で母が言った。  ごめんなさい・・・言葉を返そうとしたけど、声が出ない。  と、突然、海面が盛り上がる。波の頂点は空をおおうほどになり、闇となって船におおいかぶさってきた。  兄さん・・・父さん・・・母さん・・・  がつん、衝撃が体を揺さぶる。  ビクトルは目を開けた。 「やあ、起きたかい」  船医が言った。  護衛艦ひゅうがの艦内、医務室のベッドに寝ていた。ひどい寝汗をかいていた。 「と・・・トイレは?」  船医は壁のドアを指した。ベッドに寝る前にも用を足したけど、すっかり忘れていた。  医務室専用のトイレ、大げさな手すり付きだ。災害支援では病院船的な役割をになう護衛艦である。医務室や手術室などの施設は、択捉島の病院より充実していた。  室温は23度、この季節では熱いくらい。布団の中で汗をかいたのも道理だ。  新しい着替えをもらい、スープをもらう。胃にもたれない軽い食事。  その後、士官に囲まれて聴取となった。  ビクトル・ボリシコ、14才、択捉島生まれ、家族4人で高台の家に住んで・・・とりつくろう気力も無く答えた。  日本のBS放送を毎日のように見ていたから、日本語の聞き取りに不自由は無い。読み書きは苦手だけど。 「他には、誰が?」 「今のところ、救助できた生存者は、きみだけだ」  ビクトルの質問に、士官は首を振って答えた。 「漁船は、漂流しているのとか?」 「転覆しているのも含め、何艘か見つかっている。人は乗っていないようだ」  ビクトルは肩を落とした。  船医が健康状態を確認したので、医務室から出られるようになった。  食道へ行き、本格的な食事をもらう。  船の中とは思えない、立派な食堂だ。テーブルが床に固定されているのは、船舶らしいところ。  壁に大きなテレビがあった。日本のBS放送、地震と津波のニュースを流している。  ロシアのボローニン大統領が出て来た。 『現在、ロシア軍は国後島択捉島から離れているが、津波で住民が全滅したと確認したからである。日本が生存者を発見と報じたが、あり得ない事だ。事前に準備しておいたニセ者であろう・・・』  ビクトルはため息。テレビから目を離し、食事に専念した。  ポーン、チャイムが鳴って、テレビの画面が変わった。この艦の甲板らしい。  ヘリが甲板に降りて来るところ。ドアを開け、タンカを運び出す。  ビクトルは肩をたたかれた。医務室へもどれ、と言われた。
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