【短編】君がいた日の月影

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「ごめんってば。ほら……」  床を叩き指先で鳴らす音を不規則に変化させる。しかし、みぃちゃんはじっと俺の指先を見つめたまま身じろぎひとつしない。前足を綺麗に身体の下に畳んでいる。まるで「もう足には触らせない」とでも言いたげな体勢だ。 「う~ん……」  俺が自作したアルミホイルの玉のような細かく動くモノには即座に反応してくれるみぃちゃんが、全く反応を返してくれない。イカ耳も丸まった瞳も相変わらずだ。爪を切られたことをよほど怒っているのだろうか。 (……アレを出すか…)  現状打開のため、キッチンに足を向ける。戸棚からウェットタイプのおやつが詰まったスティック状の袋を手に取り、テレビ台に戻りふたたび腰を下ろした。 「みぃちゃん。頑張ったから、おやつだよ~……」  袋の先端を開き、腕を伸ばしてみぃちゃんの鼻先でその先端をふりふりと揺らす。俺の腕の動きに合わせ、ピクリとひげが動いた。  袋を揺らしながら、そっと腕を引く。すると、みぃちゃんが丸めた身体を起こして一歩こちら側へ近づいてきてくれた。そのままゆっくりと手前に引き寄せていくと、彼女の全身をテレビ台の隙間から露出させることに成功した。 「えらかったね、みぃちゃん」  胡坐をかいた俺の前にちょこんと座った彼女が、袋の先端をちろりと舌で舐めた。みぃちゃんが舐めとっていくスピードを観察しながら袋の中身を指先で少量ずつ押し出していく。 (お菓子で機嫌を取るなんて、美琴とケンカしたときみたいだなぁ……)  どうやら、俺の周りの()()に対しては、この方策の効果は抜群らしい。花より団子という言葉が誰よりも似合っていた亡き妻の面影を見ているようで、思わず苦笑いを零す。  そんな俺を横目に――おやつを食べ終えたみぃちゃんは、ごろごろと満足げに喉を鳴らし、「にゃぁ」と小さく鳴いた。
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