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(……きになる)
穏やかな寝息に合わせ、閉じられたまぶたが時折ぴくぴくと動いているのがものすごく気になる。目の前で小さく動くものを見ると狩猟本能で我を忘れて夢中になってしまう。足先でその動きに触れて捕まえたい、という猫としての野性と、こーちゃんは寝入っているのだから邪魔してはだめだ、という人間としての理性とが葛藤する。……でも。
「ん゛ッ!?」
身体の奥からうずうずと込み上げる衝動には勝てなかった。思わず前足が動き、こーちゃんのまぶたをペチリと叩いてしまう。その刺激によってこーちゃんが素っ頓狂な声を上げて目覚めてしまった。やってしまった、という感情で思わず片方の前足を出したまま身体が固まる。
「……みぃちゃん…?」
こーちゃんが目を擦りながら私の名前を呼ぶ。私が叩いたと認識しているだろうか。睡眠の邪魔をしてしまった、怒られる、と。思わず幼い子どもが親に怒られる直前のように身体を縮めた。
「そうだったね……みぃちゃんは夜行性だもんね……」
寝惚けたような声のまま、こーちゃんが手を伸ばしてゆっくりと私の頭を撫でた。そっと触れるその指先の感覚がひどく優しくて、安心する。
「俺に合わせてくれて、ありがと……」
大好きな声。ありがとう、という言葉。何もかもが身体の奥まで染み渡っていくような気がした。強張っていた身体がゆっくりとほぐれていく。
「……ちょっと遊ぶ?」
こーちゃんが私をじっと見つめ、小さく囁いた。元々そんなつもりでもなかったし、丑三つ時と言われる時間に無理に起こしてしまった罪悪感もある。遊ばない、寝る、という意思を伝えるように、こてんと身体を倒し鼻先をこーちゃんの顔に寄せた。
私の仕草に、こーちゃんがふっと息を漏らして小さく笑う。額を、背中を、ゆっくりと撫でてくれる指先の感覚に喉を鳴らした。
「俺ね、最近よく眠れるようになったんだ……」
「……」
目の前から転がってくる小さな声に、ピクリと耳が動く。
「どうにも実感が無くて、泣けなくてね……ご飯も食べられなかったし」
苦笑いを零しながら。こーちゃんが穏やかな声で言葉を紡いでいく。背中を撫でていた手が、今度は私の耳に触れている。
「でもね。みぃちゃんが来てくれたから、『俺も生きなきゃ』って思ったんだ。……みぃちゃんに出会えて、幸せだよ」
「……」
優しさと安らぎに満ちている声色。紛れもない、こーちゃんの本心。じんと滲む感情に、ぺろりと舌を出してこーちゃんの頬を舐める。柔らかに微笑んだこーちゃんの笑顔の背後には、まぁるく綺麗な月影があった。
「……おやすみ、みぃちゃん」
「……にゃぁ」
起こしちゃってごめんね、という気持ちと。
一緒に寝よう、という気持ちと、そして。
こーちゃんが、この先も幸せでありますように。
そんな思いを込めて。大好きなひとの頬に、こつんと頭をくっつけた。
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