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(…………?)
その感覚に違和感を抱くけれど、どんどんと大きくなっていく音から意識を逸らすことが出来ない。その音とともに、強烈な光が『徐行』と表現するくらいのゆっくりとしたスピードで近づいてくる。得体の知れない何かが近くにある恐怖感から、耳を伏せたまま尻尾を身体に引き寄せた。
その直後、一面を照らす強い光で目が焼かれる。まばゆい光にどうしようもなく目が眩んだ。低い場所に伏せたままの身体は硬直して一歩も動けない。
不意にギッと音がした。先ほどから聴こえている唸るような音は目の前の大きな物体から発せられているのだと理解すると同時に、この大きな物体は、私の生命をカンタンに奪い去れる力を秘めている、ということを本能的に悟った。
バタンと大きな音がする。目の前の物体から巨人かと思うくらいの人影が離れて、こちらへのしのしと無遠慮に近づいてくる。
(はなれ、な、きゃ)
この場所から早く離れなければ。そう思うのに、地面に足が埋まってしまったかのように身動きが取れない。
巨人の人影は私のそばまで歩いて、その場にゆっくりと腰を下ろした。先ほどからこちらを照らす光の影になって、その人相は判別できない。
大きな手がゆっくりと伸びてくる。私の頭にその手が触れると四肢が強ばり、びくりと身体が大きく揺れた――けれど。
(…………な、つかし、い、)
何故だかわからない。けれど、伸ばされた手の指先は、とても懐かしい感覚。ずっと前から知っている、ような。
「……キミ、迷ったの?」
落ちてきた声は、大好きでたまらなかった声。聴きたいと願った声。最期に一度でいいから会いたいと祈った、最愛の人、の。
(…………ぁ…)
安心感を得られたから、だろうか。頭を優しく撫でられている感覚に――ふたたび、意識が黒く、ゆっくりと溶けていった。
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