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熱が下がって学校に投稿している途中、男の子に会った電柱のそばを通った。朝ということもあって、男の子はいなかった。そのことに少し落ち込みながらも、そのまま学校に向かった。
学校が終わって帰るころに夕立がやってきた。そこまで激しい雨ではなかったので、そのままぬれて帰ることにした。
急ぎ足で帰っていると、あの電柱のそばにこの前会った男の子が立っていた。
雪華はまた会えたことがうれしくて、駆け寄った。この前とは違って、男の子に近づくとすぐに雨に打たれなくなった。
「あの、この前はごめんね。会おうって言ったのにあえなくて。」
雪華はすぐに男の子に会えなかったことを謝った。
「・・・・・・何で?」
「え?」
「何で来なかったの? ぼくはずっと待ってた。」
待っていてくれたのかな。そういえば、寝込んでいる間、毎日夕方になると雨が降っていた。雨に濡れながらも、きっとこの子は私が会いに来るのを待っていてくれたんだ。
ちょっとだけ嬉しくなってしまった。
この日から、私たちは夕立が降った日に会って話をするようになった。
男の子と一緒にいるうちに、不思議なことがいくつかあった。
まずは名前だ。
天という名前は、私が勝手に呼んでいる名前だ。男の子は名前を教えてくれなかった。いくら聞いても何にも教えてくれないのだ。だから、私は勝手に男の子のことを天と呼び始めた。
男の子のとてもきれいな髪と目の色が青い空を私に思い浮かばせたからだ。
思い返してみても、我ながら安直すぎる・・・・・。
けれど、天は嫌がる素振りなんて見せずに、とてもうれしそうに笑った。初めて見た天(ソラ)の笑顔にうれしくなった。
そしてそのまま『天』が天の名前になった。
昔のことを思い出しながら天と話していると、だんだん雨脚が弱まってきて雲の隙間から少し群青色になった天が見えた。夕立の終わりだ。
「夕立が止んだね。そろそろ行かなきゃ。」
「あ、本当だ。私もかえらなきゃ。ねぇ、天。」
「ん?」
「明日も会える?」
「多分、会えるよ。」
「よかった! じゃあね、天。また明日!」
明日も会えることにホッとして私は家に向かって歩き出した。
これが2つ目の不思議なこと。
彼に会う時もそうだけど、夕立が来ている間しか一緒にいられないのだ。何度か、夕立が来ていない日にあの電柱のところに行ってみたけど、天はこなかった。会えたとしても、今みたいに夕立が止むとどこかに行ってしまうのだ。
最初の頃はどうして? と思って聞いてみたけれど、天は笑って「ちょっと用事があるんだ」としか言わなかった。
絶対何をしているか突き止めてやる! そう意気込んで別れた後後を付けたりもしたけど、毎回見事にまかれてしまった。今ではもう、そういうものという認識だ。
なので、夏が終わってしまうと天に会えなくなってしまう。そこはいつも寂しいと思ってしまうのだ。
あ、あともう1つあった。天は物を知らない。小学生だった私もビックリするくらい何も知らなかった。
だからというわけではないけど、天と話すときは大抵天が疑問に思って聞いてきたことに関しての話題になる。あと学校であったこととかを少し。今日はフルートと部活の話をした。
家に帰った私は、すぐに雨に濡れてしまった制服を脱いで部屋着に着替えた。
ぬれて帰ってきたことには親から何も言われない。夕立が来た日は必ず天に会うから、基本的に傘は差さない。最初は選択のたびにお母さんが文句を言っていたけど、慣れたのか最近は何も言わない。
着替え終えた雪華は別途にゴロンと横になり、愛用の抱き枕を抱えて天に会えたうれしさに悶えていた。これは天に会った日の雪華の日課だ。
天はなぜか夕立が来たときにしか会えない。夕立は夏特有のものだから、夏が終われば次の夏まで天には会えないのだ。だからこそ、雪華は天に会う1回1回がとてもうれしいのだ。
ベットの上で嬉しさに浸っていた雪華は、ふと、あることに思い至った。
あれ、私って天(ソラ)の事何も知らないのでは?
と。
雪華は足を振り上げ、抱き枕を抱えたまま勢いよく体を起こした。
思い返してもいれば、天と話すときは大抵雪華がしゃべって天は聞き役に徹している。疑問に思ったことを聞いたり相槌を打ったりしてくれるけど、天が自分のことを話しているところなど見たことがない。
雪華は、彼のことを何も知らないのだ。天という名前も、雪華が勝手につけた名前であって、天の本名ではない。天がどこに住んでいるのかも、天が何者で普段何をしているのかも。好きな食べ物も好きな色も。何も知らないのだ。
そこまで考えて、雪華は決意した。次会った時にちょっとでも天のことを教えてもらおうと。
次の日、雪華は気合十分に家を出た。今日はいつもより長く夕立が来ることをこっそり祈りながら。
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