打ち上げ花火のかけら

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 私の住んでいる街には「打ち上げ花火のかけらに当たると良いことがある」という都市伝説がある。「花火のかけら」とはつまり火であるわけで、そんなのに当たったら怪我ではすまないと思うのだが、不思議なことに熱くも痛くもないらしい。「良いことがある」というのはなんとも曖昧で、宝くじが当たるとか好きな人に想いが通じるとか、人によって内容はバラバラである。しかしこの曖昧さが都市伝説を都市伝説たらしめる一要素になっているようだ。  まったく、馬鹿げている。  塾からの帰り道、私はイライラしながら歩いていた。今夜は地元のお祭りがある。場所は塾から少し離れたところにある河川敷。お祭りはもう始まっていて、今ここからでもその様子が見える。浴衣に身を包んだ人々の影がひしめき、屋台の明かりが賑やかに夜闇(よやみ)を照らす。浮ついた喧騒が聞こえてきて、その無遠慮な活気に私は眉をひそめた。  つまらない。やりたいことを我慢してまで、やらなきゃいけないことをやっているのに。今日だってそうだ。私は親に塾に行けと言われて、頑張って勉強してたのに。我慢しても、頑張っても、それが私の「普通」なんだと見なされるだけ。好きでやってるわけじゃないのに。華やかなお祭りの風景を横目に、胸の中にどす黒い気持ちが(くす)ぶった。友達同士ではしゃぎながら、恋人同士でおしゃべりしながら、家族で笑いあいながら、お祭りを楽しんでいる人たちが、憎い。憎い。……羨ましい。
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