打ち上げ花火のかけら

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 適当にコンビニで夕飯買って帰ろう。そう思って、逃げるように歩みを速めようとしたその時だった。ドン、と大きな音が身体の芯に響いた。反射的に音のしたほうへ目を向ける。上空に満開の大輪。お祭りの目玉、打ち上げ花火だ。黄色の火花でできたそれは放射状に広がり、やがて青味がかった紫に変わってから、闇に溶けるように消えていった。続けざまにドン、ドンと音がする。五つの光の玉が尾を引きながら天に昇り、次々と炸裂した。まるで輝く牡丹が並んで一気に咲いたようだ。  気づけば足を止めていた。あんなに醜くどろどろとした気持ちに浸っていたのに、私の心は今やすっかり花火に魅せられていた。暗い気分を吹き飛ばすような威勢のいい打ち上げの音に、心の闇をはらうがごとき鮮やかな色と光。純粋にお祭りを楽しむ人たちだけではない。私のようなひねくれ者にも、その美しさは届いたのだ。花火という存在自体が放つきらめきは、見る者すべてに等しく降り注いでいる。  光の玉がひときわ高く上がり、頭上で弾けた。広がる光の円は今まで見たどの花火よりも大きい。河川敷のほうからわっと歓声が上がった。円を構成する光の粒は(すじ)となり、しだれ柳のような軌跡を描いて、ゆっくりと地上へ向かう。大きな花火だからだろう、光の筋は広範囲に落ちていった。川の向こうの山へ。暗がりに沈む住宅街へ。ぼんやりと明かりのともる最寄り駅へ。そして、お祭りの会場から少し外れたこちらへ。  そう、それは真っすぐ
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