打ち上げ花火のかけら

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 身の危険を感じ、避けようと駆け出したがもう遅かった。人一人飲み込んでしまいそうなほど大きな火球が高速で迫ってくる。このままこれに焼かれて死ぬのかと思うとさすがにぞっとした。火球のまぶしさに目をつむる。花火は綺麗だったけれど、どうせ死ぬなら塾になんか行かないで、お祭りをもっと楽しみたかった。もっと自分のやりたいことをやればよかった。後悔とともに涙が目尻ににじむ。その場にしゃがみこんで身構えた、その瞬間。  軽くて弾力のある何かが頭に触れ、パァンと弾ける音がした。それから少し間をおいて、ざあざあと夕立のような音が聞こえてきた。身を焼くような熱さは感じられない。おそるおそる目を開けてみると、視界に飛び込んできたのは一面の金色。私の周りをぐるりと取り囲むように、光の雨が降っていた。  金色の滴が頭上からほとばしるのを、私は呆然と眺めていた。これが死後の世界なのか、とも思ったが、死んだにしてはあまりに五感がはっきりしている。どうやら私はまだ生きているらしい。となると、この現象は一体何だろう? 不思議、という言葉が脳裏に浮かんだ時、同時に思い出したのはあの都市伝説だった。  打ち上げ花火のかけらに当たると良いことがある。  言われてみれば、今の状況は都市伝説と一致するところがある。打ち上げ花火から「かけら」が飛んできて、当たった。それなら次は「良いこと」があるはずだが――何が起こるか想像もつかないまま、私はぼんやりと黄金の雨が止むのを待った。
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