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その日は朝から雨が降りそうな予感があったため、父がくれた重くて立派な傘を持ち歩いていた。大学の講義を受けながら、低い位置を流れる灰色の雲を眺めていた。頑張って持ってきた傘も役目を果たせそうだ。
大学の校舎を出ると、丁度夕立がやってきたようだった。熱されたアスファルトが水分を含む、嫌な感じの匂いが鼻を突く。
傘を開くと、ただでさえ暗かった視界が、さらに色を失くしたように思えた。目の下をこすりながら帰路に着いた。
何の変哲もない、いつもの帰り道だった。ただ、今はなんとなく獣臭かった。
雨雲、アスファルト、コンクリート塀、電柱、傘、僕。足元の段ボール。
かつては真っ白であっただろう毛は、今は汚れてくすんでいた。僕はただ、それに傘をさして夕立が弱まっていくのを待っていた。
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