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眠れぬ夜に
「今夜は月が明るいこと」
お母様はそう仰って、縁側に続く明かり障子をシュルリとお引きになりました。
縁側から覗く藍色の
空にかかるは下弦の月
「良い月夜ですこと」
お母様はよく通る鈴のような声で話しかけられます。
「ごきげんよう」
銀色の月が応じました。
「もう遅いから先におやすみなさいな」
お母様はこちらに首を傾げてそう仰いましたが、あまりに月が美しかったので、私はお母様の隣に並んで縁側に腰を下ろしたのです。
「それならば、お嬢ちゃんが寝るまで数を数えて差し上げましょう」
銀色の月はそう言うと「ひとぉつ……ふたぁつ……」と数え始めました。
月が数を数えるたび、藍色の空から溢れるようにツッと星が流れてゆきます。
私は流れる星を見上げながらいつしかうとうとと瞼を下ろしておりました。
「おやすみなさい、いい夢を」
頭の上でお母様の声が聞こえると、ふぅわり空を飛ぶような心地がいたします。お母様は私を布団へと運んでくだすったのです。
細く目を開け縁側を見やると、お母様と月はお互いに向き合い、何やら楽しげにお話されておりました。
私は鈴のようなお母様の声とチェロのような月の声のアンサンブルを聞きながら、静かな眠りについたのです。
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