散るも華

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どうやって帰ってきたのかも分からない。家の中でぼーっとしている時に、子供達は帰ってきた。あっという間に賑やかになったが美羽自身は何もする気になれないでいる。(どうしよう。どうしよう。) 「ママ、お腹減ったよ。」 潤の言葉に、美羽はやっと我に返る。あわてて、しっかりしなくては、この子達の為にも、私がどうにかしなければ、そう思いながら涙が溢れてきた。子供達には、今日は疲れてるからピザ頼むね、とだけ言って、キッチンで野菜サラダを作る。 次の休みは俊哉と一緒にみんなでどこかへお出かけしよう。何もかも忘れてしまいたい。あの日よりも前の家族に戻りたい。そんな勝手なことが許されるはずもないけど、美羽はそう思っていた。 美羽の様子がどう見てもおかしい。その日の夜、俊哉は美羽に話を切り出す。 「美羽、どうした?具合悪いのか?」 「うん、ちょっと。なんか。」 そう言うだけで、美羽は泣きそうな表情をしている。俊哉はゆっくりと話しかける。 「正直に答えて。二人は何時からなの?」 「根津さんのこと。そのことで悩んでるんじゃないのか?」 「話したくないなら、ここを出て行ってもいいんだよ。君たちは好きにすればいい。」 俊哉はあくまでも冷静な話し方をしている。彼女の本心を知りたかった。 「そんな、ごめんなさい。」 「謝って欲しいわけじゃないんだ。正直に話して欲しいって言ってるんだ。」 「根津さんとの関係、いつから?。美羽はどうしたいの?」 俊哉は、結局の所、二人の姿を実際に見たわけではい。しかし間違いないだろうという思いは揺らがなかった。 「それは、いつからって言うか、ずっとじゃないの。」 「そう。じゃあ、最初はいつ?」 「引っ越しをする少し前、一度だけすごくお酒に酔っ払っちゃって、それで何て言うか彼に優しくされてつい。」 「それで今も関係が続いてるなんてありえないよ。」 「だから、ずっとじゃないの。」 「恭子から離婚したって聞いて、しばらくして、なぜか根津さんから電話があったの。友達の所に来てるって、確か引っ越し先がこの近くだったんじゃないかなって思って連絡したって。」 「世間話でもするつもりで、会いに行ったの。離婚したって聞いてなんとなく。」 「それが多分、あの日。あなたが根津さんに会ったって言った日。」 「別に隠さなくても良かったんだけど、なんとなく何も言わなかったって根津さんが言うから、変に誤解されてもいけないと思って、あの日のことは根津さんに会いに行ったとは言わなかったの。」 「期待してた?」 「そんなんじゃ。」 「でも、おかしいよね。例え酔っていたとはいえ、一度はそういう関係のあった男に呼び出されて、わざわざ会いにいくなんて、ましてや向こうは離婚してるんだ。下心があって当たり前だろう。」 「ごめんなさい。」 「だから、謝って欲しいわけじゃないんだ。美羽だって、会いたくて、会いに行ったんじゃないの?」 「その後は、変装までして会いに行ってるんだ。どう考えてもおかしいだろう。」 「あれは…」 「彼に会いに行ったんだよね?」 「…」 美羽は、ポロポロと泣き出した。辛くて、悲しくて、もうどうしていいか分からない。少しでも罪を軽くしたい。耐えられない。自分のしたこととはいえ、許してほしい、助けて欲しい、そんな思いで、心はぐちゃくちゃ。これ以上言葉を発することはできなかった。 美羽は、俊哉にはホテルに入るところを見られたのだと思った。二人で入ったわけではなかったが、彼が入るところも見られていたのだろうと。あの日のこと、あえて私が正直に話すことを待っていたのだ。それなのに、私は嘘をついた。俊哉は私を許してはくれない。どうしよう。もうお終いだ。 変装をしていたことを見られたあの日、義昭のほうが先にホテルに来ていた、だから、美羽を付けてきたのなら義昭の姿を見ているはずはなかった。 しかし、美羽にはそのことに気づく余裕はない。一ヶ月以上あの日から経っているのに、何故今こんなことを言い出したのか、そんなことを考えることも出来ない。美羽はただただ、小さな声でごめんなさいと繰り返しながら涙を流し続けた。俊哉は、それ以上美羽を責めることはしなかったが、静かに、 「俺と別れたい?」そう言った。すぐに美羽は「別れたくない。」と、はっきり口にする。 「わかった。今日はもう寝よう。」 ぐずぐずと泣く美羽を寝るように促すが、美羽は寝ようとはしない。俊哉はそのまま美羽をダイニングに残し、自分の部屋に入ってしまった。 次の日の朝、俊哉はいつもと変わらない様子で仕事に出掛ける準備をしていた。美羽も、忙しく子供たちのために支度をしていた。これからどうしたらいいんだろう、そう思いながら美羽は眠れない夜を過ごす。
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