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アナザーストーリー
アンチマイヴィラン
『集団ヴィラン【悪役の産声】に所属しているヴィラン【滝川】が、ヒーロー【デンジャラス】によって逮捕されました。滝川は一部容疑を否認__」
「…倒されたんだ、ヴィラン。」
ニュースではヴィランがヒーローに連行されている所が映っている。隣町で結構な被害が出たから一時はどうなるかと思っていたが、無事逮捕されたらしい。と言うか、滝川って本名じゃないか?仮に偽名だったとしてもヴィラン名は一生のものなんだからもっと良い名前を付けたらいいのに。ドアを開け、通学路に出るとヒーローが空を飛んでいるのが見えた。
(…ヒーローってやばいな。僕よりよっぽど良い能力を持ってるんだろうな。)
教室に着くと、健斗がスマホを弄りながら挨拶してきた。また能力を使っているらしい。
「おはよー黒ちゃん。」
「…健斗、能力の悪用は校則違反だけど。」
「ふっふっふ…バレなきゃモーマンタイ!」
健斗は又もや能力を使っていた。[自身に触れている物質を認識出来なくなる能力]教えられた時は驚いたけど、今となっては見慣れてしまった。健斗は先生に構って欲しいが為にやっている節もあるから、今日は別の先生に告げ口しよう。
「だ、か、ら、黒ちゃん。先生に言わないでね?」
「いや、今日は田中先生に言うから。」
「えー⁉︎先生じゃないのぉ⁈うぅ…悲しい。」
「いや、知らないよ。」
今日も授業は相変わらずつまらず、昼には家から持って来たタンポポの天ぷらを丸齧りする。放課後に健斗は部活に行き、僕は真っ直ぐ帰る。夕焼けが広がる空、帰り際の学生の波を通り抜け家に直行する。コロッケ屋からするコロッケの匂いに釣られそうになるが、ぐっと堪えた。
いつもの授業。いつもの友達。いつもと変わらぬ生活に僕は満足していた…の筈だった。
「………⁈」
悲鳴、泣き声、叫び、建物が崩れる音と共に現れたのはニュースで話題となっていた【悪役の産声】だった。僕はすぐさま逃げ出そうとしたが、瓦礫に足が挟まり動けない。どかそうにしても重たくてまず無理だ。
絶望
ひしひしと伝わってくるプレッシャー。恐怖で震える手足。逃げようと焦れば焦る程状況は悪化していく。逃げ惑う人々、殺された人だったもの、逃げる事は許されず逃げる事で殺される。僕はそれを黙って見ている事しか出来なかった。背を縮め、耳を押さえ、目を瞑る。現状から逃れる手段はそれしか残されていなかった。すると、目の前から気配がして思わず顔を上げてしまう。
そこに居たのは紛れもなく鬼だった。
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