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夏を失ったあの一瞬の戦慄が、まだ肌に残っているようだ。身体にまとわりつく濡れたシャツの不快感が、「未来の国」と現実の境界線を明確にしてくれる。
彼女が病に倒れてから一年。毎月通い続けた白い病室。相変わらず上っ面を滑り落ちていく会話。でも、それももうすぐ終わりを迎える。
初めは彼女に対する興味からだった。残りの人生が一年だと宣告された人は、どんな顔でその日を迎えるのだろう。諦めか、悲しみか、それとも恐怖だろうか。
彼は本心を隠したまま、病室に通い続けた。それは献身的な愛のように見せかけた、優越感を満たす行為だった。
夏がないと感じたあの瞬間、彼の頭によぎったのは「あの奇病は感染するのか」という恐怖だった。罰が当たった?いや、まさか。ただの傍観者だ。彼女に危害を加えたわけでもない。むしろ、お見舞いに行ってやっていたんだ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない。
ふと、彼は振り返り、彼女の病室を見上げた。さっき閉めた窓のカーテンが、開いている。足を止めて、じっと目を凝らすと、ベッドから動けないはずの彼女の白い顔が、窓越しにこちらを見下ろしていた。
そういえば先ほどから止まらない汗を、必死にハンカチで拭いているのだが、どんなに力を入れてこすっても全く感覚がないのは、一体どうしたことだろうか。
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