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午後5時28分。
夕立のせいかお客さんは一人もいない。それ以前に、最近近くに新しいカフェができたせいで客足は遠のく一方だ。
「暇ですね」
そんな後輩の言葉に、「そうだね」と一言返す。立地は悪くないこのカフェの前は人通りもそれなりにある。外から学生の騒ぎ声が聞こえるのは、きっとこれも夕立のせいだ。
「店閉めちゃう?」
店長の冗談に「ええー」と笑って見せる。ただ、店長のこの気まぐれは実現することが多々ある。個人経営のカフェであることに加え、店長は本当に自由人だ。
「え、じゃあ上がっていいですか?今日彼氏と約束あるんで、早めに帰りたいって思ってたんですよねー」
甘え上手な後輩の悪ノリに、「じゃあそうしよっか」と店長は軽く同意した。
「春野さん、表の看板入れてきて。山下さんは軽く中の清掃を頼んだよ」
結局本当に閉店するらしい。
「分かりました」
「はーい」
指示された通り、後輩は掃除用具を取りに行き、私は表に出ようと扉を開ける。
「えっ…」
扉を開けた途端、思わず声を上げる。驚くのも無理はなかった。扉を開けてすぐ、足元に蹲る人影を見つけたのだ。
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