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「こんにちはー」
「あ、いらっしゃい」
それから1ヶ月が経ち、彼自身もこのカフェに通うことに慣れていた。いや、慣れた以上に。
「今日僕ハンバーグ食べたい!」
少し、ふてぶてしくなったような。
「えー、もっと簡単なのにしてよ」
「だってお姉さんの料理何でもおいしいからさー。今度行ったときはハンバーグリクエストしようって決めてたんだよね!」
「うわ~ずるい。そう言えば作ってもらえると思ってんでしょ?まぁ作るけど」
「やったね」
無邪気に笑う彼。そして甘やかす後輩。ここ最近よく見る光景だ。後輩にとって彼は可愛い弟のようなものなのだろう。彼のおかげでカフェのメニューは増え、客足も少しずつ伸びている。
「ほら、できるまでに怪我の手当てしちゃおう」
「あ、うん。ありがとう、お姉さん」
私が声をかけると、彼は私に目を合わせてふにゃりと笑う。それが可愛らしい。彼をいつもの奥のボックス席に通して、救急箱を取りに行く。
彼は来るたび相変わらず傷だらけ。後輩が料理を作る間に私が手当てをするのも、最早決まった流れになっていた。とはいえ怪我の理由も、それが手当されていない理由も、私を含め誰も聞こうとはしなかった。触れるべきでないのかもしれないとも思っていたし、聞いたことで彼がここに来なくなるかもしれないという考えが、行動に移させなかった。
「はい、できたよ。ハンバーグ」
「うわ、めっちゃおいしそう」
「それとミルクティーね」
「やった、ありがとう店長」
手当てを終えた彼の元に運ばれたハンバーグと、お決まりのミルクティー。彼は目を輝かせて手合わせ、「いただきます!」と言い切る前からナイフとフォークを手にしていた。
「ごちそうさまでした!」
10分もしないうちに彼はハンバーグとミルクティーを完食した。
「ハンバーグ、もう少しだけ火通す時間短くてもいいかも。それと……」
そして、彼は忘れず仕事を全うする。
「ハンバーグとミルクティーって合うの?」
「合ってんのかは分かんないけど、どっちもおいしいから」
無邪気に返されるそれは、正直答えになっているのかもよく分からないものだが、彼の話しているとどこか心が安らいで癒される。
私は彼が来るのがいつの間にか楽しみになっていた。
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