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その塊はゆっくりと顔を上げた。ずぶ濡れで傷だらけ。あの日と同じ光景だった。
「あ、お姉さん」
弱々しい声に、少し焦る。
「大丈夫?動ける?」
「ん……うん、大丈夫」
そう返しながらも、彼が動く様子はない。
「一旦入ろうか。体重かけてもいいから、ちょっとだけ頑張ってね」
そう言って、彼の体をこちらに預ける。その体は酷く冷たい。
「ちょっと沁みるよ」
カフェの中に入って、怪我の手当てをする。それは何度もしてきたことだったけれど、ここまでぐったりとしている彼を見るのは初めてだった。手当てをされている間の彼は、ただ無気力に椅子の背もたれに身を預けている。
時刻は21時。ずぶ濡れの彼をこのまま追いだすわけにもいかない。きっとこの時間にここにいたということは、帰れない理由があるのだろう。
「……家来る?」
気づけば、そう尋ねていた。彼はゆらりと視線をこちらに向ける。そして、こくんと小さく頷いた。
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