猫は愛盗り去っていく

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「あれ、お客さん?」  ずぶ濡れで傷だらけの彼を見て、店長はそう言った。特別驚く様子もなく、普段通りののんびりとした口調だ。 「はい。と言っても、私が無理矢理引き入れてしまったんですけど」  彼はちらりと遠慮がちに視線を上げて店長と目を合わせると、頭を下げた。 「とりあえずここ、座って」  カウンター席に座ってもらいタオルを手渡す。彼は少し申し訳なさそうにそれを受け取って、髪を拭き始めた。あとは、傷の手当て。 「先輩、これどうぞ」  いつの間にか横にいた後輩が救急箱を差し出していた。甘え上手で面倒事を華麗に避ける彼女だが、周りをよく見ていて気が利く。彼女が可愛がられる要素のひとつだ。 「ありがとう」  彼女から救急箱を受け取ると、「じゃあ私はこれで」と悪戯っ子のような笑みを見せた。こういうところはちゃっかりしている。 「お疲れ様」 「お疲れ様でした~」  彼は後輩に小さく頭を下げ、後輩も軽く口角を上げて見せる。そしてカランと軽い音をさせ、後輩は店を出て行った。
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