猫は愛盗り去っていく

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「雨、止んできたね」 「本当ですね」  あれから十数分。外の雨はいつの間にか止んでいた。 「すみません、長居しちゃって。そろそろ失礼します。これ、いくらですか」  彼はそう言って立ち上がり、財布を取り出した。 「あー、いらないよ。それメニューにないからそもそも値段設定してないし」  店長はひらひらと手を振る。普通のミルクティーはもちろんメニューにあるが、店長特製のこの甘いミルクティーがないのは事実だ。 「や、でも」  彼は店長の返答に首を横に振り、困ったようにちらりと私を見る。 「本当に、いいから」  私も店長と同様の返答をする。困った表情の彼はそれに納得できないようだ。 「それじゃあ、またおいでよ。その時でいいから」  私がそう言うと、彼は少し悩んで「はい」と頷いた。未だに納得してはいないようだったけれど。 「じゃあまた、お邪魔します。ありがとうございました」  そう言って彼は頭を下げ、店を出て行った。
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