1人が本棚に入れています
本棚に追加
それから一週間ほど経った頃。また天気は雨降りで、お客さんも相変わらず少ない。注文された料理も出し終え、少しゆったりとした時間が流れる夕方の店内。
カラン、と扉の開く音がした。
「いらっしゃいませ……あ」
反射的に口を開いた先にいたのは、あの日の彼。今日はずぶ濡れではないが、相変わらず傷だらけだ。
「……こんにちは」
彼は小さく頭を下げる。
「取り敢えず、怪我の手当てしようか」
私がそう言うと、彼ははっとしたような表情をした後、申し訳なさそうにこくりと頷いた。
今日はお客さんがいるため、こっそりと奥のボックス席に案内する。ここならば人通りもない。そこで先週と同様に怪我の手当てをした。
「はい、終わったよ」
「ほんとすみません、前もしてもらったのに……」
「ううん、気にしないで」
そんな会話をしていると、ふらりと店長が現れる。
「はい、これどうぞ」
先週と同じ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「あ、いや、今日はお金を払いに来たんです。手当て、してもらっちゃいましたけど」
「んー、でも作っちゃったからさ。飲んで」
有無を言わせない勧め方。私も先週彼に同じような手段を使ってしまったけれど。
「いや、でも、ほんと申し訳な」
「あっ、先週の!」
彼の言葉を遮るように現れたのは後輩。
「ちょっと待ってて」
そう言い残すと、彼女は小走りで奥に入っていった。
最初のコメントを投稿しよう!