猫は愛盗り去っていく

6/17
前へ
/17ページ
次へ
 それから一週間ほど経った頃。また天気は雨降りで、お客さんも相変わらず少ない。注文された料理も出し終え、少しゆったりとした時間が流れる夕方の店内。  カラン、と扉の開く音がした。 「いらっしゃいませ……あ」  反射的に口を開いた先にいたのは、あの日の彼。今日はずぶ濡れではないが、相変わらず傷だらけだ。 「……こんにちは」  彼は小さく頭を下げる。 「取り敢えず、怪我の手当てしようか」  私がそう言うと、彼ははっとしたような表情をした後、申し訳なさそうにこくりと頷いた。  今日はお客さんがいるため、こっそりと奥のボックス席に案内する。ここならば人通りもない。そこで先週と同様に怪我の手当てをした。 「はい、終わったよ」 「ほんとすみません、前もしてもらったのに……」 「ううん、気にしないで」  そんな会話をしていると、ふらりと店長が現れる。 「はい、これどうぞ」  先週と同じ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。 「あ、いや、今日はお金を払いに来たんです。手当て、してもらっちゃいましたけど」 「んー、でも作っちゃったからさ。飲んで」  有無を言わせない勧め方。私も先週彼に同じような手段を使ってしまったけれど。 「いや、でも、ほんと申し訳な」 「あっ、先週の!」  彼の言葉を遮るように現れたのは後輩。 「ちょっと待ってて」  そう言い残すと、彼女は小走りで奥に入っていった。  
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加