猫は愛盗り去っていく

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「これちょっと食べてみてよ。試作品なんだけどさ」  そう言って再び現れた後輩の手には、新作メニューの試作品であるシフォンケーキ。 「えっ、いや、申し訳ないです」  彼は益々萎縮してしまっているけれど、後輩も引く気はないようだ。 「いや、せっかくだから食べて。その代わりこのケーキの駄目なところ、3つ言ってもらうまで解放しないけど」 「ええ……」  このカフェのメンバーは私を含めて強引な人が多い。彼は渋々と言った様子でミルクティーとシフォンケーキを受け取り、一欠片口に運ぶ。 「どう?」 「おいしい、です」 「うん、ありがとう。それで、駄目なところは?」  淡々と進めていく後輩の手にはメモ帳。彼は少し困った様子ではあったけれど、「えっと……」と話し始める。 「もう少し、ふわふわしてた方がおいしいかもしれないです」 「うん、あと2個」 「紅茶の風味が、もう少し強くてもいいかなって、思います」 「よし、あと1個」 「添えられてるホイップクリームの甘さが、もう少し控えめでもいいと思います」 「おっけー、ありがとう」  後輩は満足そうに口角を上げると、「なるほどねー」と呟いてまた奥へ消えていった。 「えっと、よかったんでしょうか」  彼は少し心配そうに私を見る。 「うん。有難い指摘だったと思うよ」  そう返すと、彼は少し安心したように息をついた。
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