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「じゃあさ、試食係ってことで、たまに来てよ」
「試食係……?」
「そうそう、君の指摘結構よかったからさ」
「それ、また払わせて貰えないんですか」
「まぁそうだね」
「さすがに駄目です、申し訳なさ過ぎて」
後輩の提案はなかなかいいものだと思ったけれど、彼はいやいやと首を横に振る。
「バイトだと思ってさ、お願い」
「うちの高校、バイト禁止なので」
「お金発生してないからよくない?」
「いや、そもそも僕が払うべきで……」
話し合いは平行線だ。
「試作品食べて、悪いところ3つ挙げてもらうのがお仕事ね」
「僕ばっかり得してませんか」
「指摘してくれる人が欲しいの。ね、お願い」
後輩が上目遣いで彼を説得している。それにあたふたしている彼の様子は、傍から見ていて面白い。
「ええ……いいんですか」
「こっちがお願いしてるんだけど」
「いや、えっと、うーん……」
「君が嫌じゃなければ、また来て」
進まない話し合いに、私も一言だけ投げる。少しだけずるい言い方で。嫌だなんて言いにくいだろう。分かっていてその言葉を選んだ。
「……嫌じゃ、ないですけど」
「じゃあ決まりー」
そう言って後輩は悪戯っ子のように笑う。彼女のその笑顔は、小悪魔っぽくて女の私から見ても可愛い。
そして、彼は強引に試食係という名でこのカフェに通うことが決まった。
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