猫は愛盗り去っていく

9/17
前へ
/17ページ
次へ
「じゃあさ、試食係ってことで、たまに来てよ」 「試食係……?」 「そうそう、君の指摘結構よかったからさ」 「それ、また払わせて貰えないんですか」 「まぁそうだね」 「さすがに駄目です、申し訳なさ過ぎて」  後輩の提案はなかなかいいものだと思ったけれど、彼はいやいやと首を横に振る。 「バイトだと思ってさ、お願い」 「うちの高校、バイト禁止なので」 「お金発生してないからよくない?」 「いや、そもそも僕が払うべきで……」  話し合いは平行線だ。 「試作品食べて、悪いところ3つ挙げてもらうのがお仕事ね」 「僕ばっかり得してませんか」 「指摘してくれる人が欲しいの。ね、お願い」  後輩が上目遣いで彼を説得している。それにあたふたしている彼の様子は、傍から見ていて面白い。 「ええ……いいんですか」 「こっちがお願いしてるんだけど」 「いや、えっと、うーん……」 「君が嫌じゃなければ、また来て」  進まない話し合いに、私も一言だけ投げる。少しだけずるい言い方で。嫌だなんて言いにくいだろう。分かっていてその言葉を選んだ。 「……嫌じゃ、ないですけど」 「じゃあ決まりー」  そう言って後輩は悪戯っ子のように笑う。彼女のその笑顔は、小悪魔っぽくて女の私から見ても可愛い。  そして、彼は強引に試食係という名でこのカフェに通うことが決まった。  
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加