華(か)の国の姫

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華(か)の国の姫

私の名は、桃花(とうか)。 華(か)の国の姫。 父母はいない。 母の名は、桜花(おうか)。 華の国の姫だった。 母は、生まれながらに身体が弱く、子を産む時は、自らの命と引き換えになると言われていた。 華の国の王家の血筋は、代々、姫に引き継がれて来たが、どの時代の姫も身体が弱く、自らの命と引き換えに王家を守って来た。 母の母、つまり、私の祖母も身体が弱く、母を産んで間もなく亡くなったそうだ。 そんな母が子を宿した。それが私。 母の父であり、私の祖父の華の国の王、龍迦(りゅうか)王が、母に子の父の事を聞いても一切答えず、ただ一言、 「お腹の子は華の国の王家の血を引く私の子です。私はこの子をどうしても産みたいのです。」 と言った。 雪のように白い肌、桜のようにほんのり赤い頬、潤んだ大きな黒い瞳。その瞳には、儚げな姿からは想像できない強い光、確かな覚悟があったそうだ。 母は、王家の血を引くただ1人の子であり、母が子を産まなければ、王家の血が絶えることになる。 祖父は、悩んだ。そして、苦しんだ。 いずれ、桜花は自らの命をかけて子を産まなければならない。それが王家に生まれた宿命だった。ならば、子の父などどうでもよい。桜花が産みたいと言う、今、産ませてやるべきではないかと。 華の国の王家としては、父親がわからない子に王家を継がせるわけにはいかない。しかし、父として、いずれ命をかけて子を産まないといけない娘の希望を叶えてやりたい。 そして、祖父は、決断した。 華の国の民がなんと言おうと、重臣たちがなんと言おうと、娘と生まれてくる子どもを守ろうと。 その後、祖父は、子の父の事は一切聞かず、全力で母の出産を支えた。 祖父の心配をよそに、華の国の民や重臣たちも、命をかけて出産に臨む母を応援した。 心優しく美しい母は、民からも重臣からも愛されていたのだ。 国中のみなの願いは1つ。 「どうかご無事で」 その祈りが通じたのか、母は無事に私を産んだ。ただ、産後の肥立はよくなかった。  それでも、母は、全身全霊で私を愛し育てた。 そして、私が歩き始めた頃に、みなから愛されて健やかに育つ娘に安堵したかのように息を引き取った。 もっと娘と共に生きたかったはずだが、それでも、母は幸せそうに微笑んで逝ったそうだ。 最後まで子の父親のことは明かさずに…。 これが、じいとばあから聞いた、私が生まれた時の話だ。 その後、私は、華の国の王である祖父と、じいとばあに育てられた。 それはそれは、愛情いっぱいに。 そして、時が経ち、私は、母や祖母からは想像もできないくらい丈夫で元気な娘へと成長した。
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