口上

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()れは……久喜萬字屋の振袖新造(ふりしん)の『舞ひつる』でなんしかえ」 おゆふは、きょとんとした顔で訊き返した。 兵馬は一つ、肯いた。 「さすれば……相も変わらず吉原(さと)の見世に()りなんしではないのかえ」 「それがよ、まるで神隠しに遭っちまったみてぇに、吉原からぷっつりと姿を消しちまったのよ」 とたんに、おゆふの切れ長の目が見開かれる。 「わっちは淡路屋へ嫁入ってからは、お(さと)とはすっかり断ってしもうてなんしゆえ……」 童女のごとく邪気なき(さま)からみるに、おゆふはまったく知らなかったらしい。 そこへ、茶を携えた茶汲み女がやってきた。 「へい、お待っとさんでやす」 茶汲み女は胡座をかいて座す兵馬の前に茶を置くと、すぐに下がっていった。 兵馬は前に置かれた湯呑みを手にし、中の茶をぐいと(あお)った。 「久喜萬字のお内儀(っか)さんにはお会いなんしたか」 「もちろん、()うたさ」 実は手下の伊作や与太だけでなく、あれから兵馬もまた御役目の合間を縫って久喜萬字屋へ出向いていた。 「お内儀(っか)さんは、舞ひつるは今何処(いずこ)に居りなんしと云うてなんしかえ」 「お内儀(かみ)はよ、『ちょいと具合を悪うしちまって、養生のためにしばらく余所(よそ)へやってる』の一点張りなのよ」 お内儀は頑として同じ返事であった。 「じゃあ、『いつ(けぇ)ってくるんでぇ』って訊いたらよ、お内儀は『いつ具合が良うなるかは舞ひつる次第』って云いやがってよ。 それに、おれがあんまりしつこく訊くもんだからさ……」 兵馬は少々気まずげに、その整った(かんばせ)を歪めた。 「『若さまはなぜ、そないにも舞ひつるの行方を知りたいのか』って、お内儀から逆に訊かれちまってよ」
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