877人が本棚に入れています
本棚に追加
久喜萬字屋の場
暮れ六つ、夕闇迫る刻がやってきた。
廓の玄関先にずらりと並んだ芸者衆が、一斉に手にしたお三味を掻き鳴らす。
下足番が、紐の付いた下足札を漁師が網を投げるが如く、ばらりと空へ放つ。
それを合図に、客寄せの男衆が勢いよく表におん出て、往来に向かって大声を張り上げる。
通りに面した張見世では、廻り部屋の女郎たちが長煙管を片手に座し、大籬で仕切られた向こうから、今宵ひとときの「 娼方」を求めて吟味する男たちへ向けて、艶を帯びた流し目を送っている。
吉原は久喜萬字屋の「夜」が始まった。
最初のコメントを投稿しよう!