口上

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「……()ござんす」 おゆふもまた——「淡路屋の若女将」の言葉で応じた。 「どうか(おもて)をお上げになっておくんなまし。 お武家さまが手前どもみたいな下賤の者に、もったいのうござんす。 ……その代わり、手前どもにもお頼みがござんす。聞き入れてくださるんなら、お力になってござんしょう」 ——『頼み』とな…… (いぶか)しげに兵馬が顔を上げた。 だが、それに反して、おゆふはふっくらと微笑んでいた。 そして、知らず識らずのうちに、我が子の宿った胎をやさしく撫でていた。 「……松波様」 改めて、おゆふは兵馬に呼びかけた。 「今後とも()の淡路屋を…… ()()とも、ご贔屓にしておくんなさいましよ」 そして、おゆふは兵馬に向かって深々と平伏した。
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