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すっかり用が済んだため、おゆふが小上がりから土間へ、そろりと降りる。
すでに茶汲み女が草履を揃えてあった。
その草履に足を差し入れたそのとき、ぐらり、とおゆふの身が傾いだ。
身重のその身になにかあっては、淡路屋に申し開きが立たぬ。
兵馬はあわてて、おゆふをしかと支えた。
「大事はねえか」
兵馬は覗き込むようにして尋ねると、おゆふはこくりと肯いた。
「大丈夫でありんす。申し訳のうなんし」
そのまま、店の入り口まで寄り添いつつ歩み、兵馬は茶汲み女に勘定と心付を渡す。
途中で、女二人とすれ違った。
一方は黒縮緬の袖頭巾をすっぽりと被り、顔を背けたうえに袖口で口元を隠していた。
眉を落としていることから人の妻であろうが、枇杷茶色の小袖に白茶の打掛姿から、そこそこの身分のまだ若い妻女なのかもしれない。
もう一方はその女の供であろう。こちらは頭巾を被らぬ若いおなごだった。
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