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「お、お武家さま、お待ちくだせぇ。
おいらは松波様に『御用』があって……」
いきなり鍔をかちり、と鳴らし、すぐさま鞘から太刀を引き抜こうとする内匠に、与太が目を白黒させる。
「……内匠、落ち着け」
兵馬はすかさず傍らの内匠を制したあと、縁側の向こうの庭先で傅く与太に向かって訊いた。
「なにか判ったんだな」
すると、与太はぶんぶんと首を縦に下ろした。
兵馬は内匠の方に振り返った。
「本日はここまでだ。おめぇは部屋に戻りな」
途端に、内匠の顔が歪む。
「御用向きのことならば、後学のため某も聞きとうござる」
しかし、兵馬はきっぱりと云い切った。
「駄目だ。おめぇはおれの従弟とは云え『北町』の者だ。
……そいつを忘れるんじゃねえ」
「南町」奉行所の兵馬からさように云われると、「北町」奉行所の内匠は二の句を継げなくなる。
親たちの代に較べると互いの行き来もできてずいぶんと変わったが、それでも手柄をめぐって鎬を削る者同士であるのは変わらない。
だが、内匠はそれでもまだ後ろ髪を引かれるのか、恨みがましそうな目をしつつ渋々部屋から出て行った。
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