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レックス
「レックス、おやすみのルーティンをお願い」
お気に入りのベッドに寝転がりながら、優香はレックスに話しかけた。
『タイマーを6時半にセットします。おやすみの音楽はクラシックでよろしいですか?』
最近導入したばかりのAIスピーカー『レックス』はなかなか優秀で、優香の要望ににきちんと応えてくれる。毎朝6時半にタイマーをセットして、眠りにつくまで好きなクラシック音楽を流してもらうのが優香の決めた、『おやすみのルーティン』だ。
仕事のある前日はいつも同じルーティンなのだが、明日からしばらく連休だったことを、優香はふと思い出す。
「レックス、おやすみのルーティン、ちょっと待って。明日は休みだし、眠くなる話でも聞きたいな」
『どんな話をしましょうか?』
「今日は蒸し暑いし、ひんやりする話、そうね、怖い話でも聞きたいな。レックス、怖い話して」
レックスは小さな体を光らせると、怖い話を話し始める。
『それでは、「悪魔がきた」の話をします』
「うん、うん」
『今日は彼女と動物園でデート。その動物園は、何か出ると話題のスポットだ。手をつなぎしばらく歩いていると、彼女が急に無言になった。「どうしたの?」と聞くと、彼女は檻を指差しながら、ぽつりとつぶやいた。「あ、クマがきた」ヒュ~ヒュルル〜』
「アハハ、何それ。『あ、クマ』だから『悪魔』それで『悪魔がきた』ってこと? すっごいダジャレ! 効果音まで流してくれるなんて、レックス、サービスいいね!」
『喜んでいただけて、わたしもうれしいです』
本格的に怖い話を聞かせてくれるかと思ったら、実にくだらないダジャレだった。優香は少し楽しくなってしまった。
「レックス、他の怖い話も聞かせてよ」
レックスに指示して、優香は他の『怖い話』も聞かせてもらった。どうやらいくつかのバージョンがあるようで、どれもくだらないダジャレの「怖い話」だった。しばらく楽しんでいた優香だったが、やがて本格的な話を聞きたくなってしまった。
「レックスの怖い話も楽しいけど、もっとこう、本当に怖い話が聞きたいな。レックス、本当に怖い話を聞かせて」
『本当に怖い語の最新のデータがあります。ダウンロードしますか?』
「うん。レックス、ダウンロードして」
レックスは小さな体を光らせ、ダウンロードを開始する。
『ダウンロードが完了しました。本当に怖い語を開始しますか?』
「レックス、話して」
『むかしむかしあるところに、ひとりの男がいました。彼には好きな女性がいました』
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