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「ゆーた、そろそろネンネしようか?」
パジャマ姿で走り回る愛息を、にこやかに呼び止める。が、しかし。
「やーよ。ねんねちないもん」
当たり前のように、首をぶんぶんと振って再び部屋の中を走り始める。
そう、これがいつもの光景。
ここから『就寝』という、一日の最後を締めくくる壮絶なバトルの火蓋が切って落とされるのだ。
「ゆーた、おふとん入ろうよ」
おいでおいでをしてみる。まずは軽いジャブからだ。
「やーもん。『ぶれっどまん』のビデオみるー!」
テレビを指差してお気に入りのアニメを再生しろと要求してくる。『ぶれっどまん』は確か1話が15分。ちっ! 妥協するかどうか微妙なラインだな……。
「……どれ、みたいの?」
「げきじょーばん、がいいー!」
おいおい劇場版だと? あれは確か1時間のはず。そんな大幅なタイムロスを許容出来るわけがないではないか。
「『ぶれっどまん』はもう遅いからネンネしてるよ、また明日の朝にしよう」
「えー、やだー!」
少しむくれる。
「大丈夫、また明日ゆっくり見れるから。さ、お布団入るよー」
「はしるもーん!」
再び、子犬のように布団の上を走り始める。
いったい何故なんだろうか。寝る準備をしようと布団を敷いた途端に、子供がハイテンションになるのは。
だがこれを放置するわけにはいかない。何しろ我が奥様から『私が家事をしている間にゆーたを寝付かせておくように』との厳命を受けているのだから。
「もうネンネするよー?」
「だっこするー!」
だめだ、会話として成立していない。
「いや、もうネンネするからね。パパはもう寝るんだよ」
そう言って、先にごろりと横になる。そうでなくても今日はハードワークだったからさっさと寝たいし。
「ぐー」
寝たふりをしてみる。
「おきてるー!」
一瞬で見抜かれる。
「いやいや、これでも寝てるんだよ?」
自己解説をするが。
「うそだー! おきてるー!」
どうやら乗ってこないようだ。仕方ない、強硬手段をとるか。
「もう電気さんが消えるよ? 暗くなるぞ?」
照明のリモコンを手に取って脅しをいれる。
「おふとん、はいるー!」
とりあえず布団にやって来た。やっと、第一段階クリアである。
そしてここから、更なる『おやすみバトル』が続くのだ。
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