やっぱり体力

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 そのまま脅すことで魔物を大人しくさせたのだろう。  先ほどの『こっちを攻撃するな』という男の言葉はガムルに脅されて言った言葉だったということだ。  ただ、この場の制圧といってもまだ終わってはいない。  今の騒ぎで、近くにいた他の魔物もこちらで近づいてきているのが茂みの枝を折って進んでくる音からわかる。 「迎撃させろ」  ガムルの声は大きくなかったが、私にも微かに聞こえた。  脅されている男は反撃の機会を完全に諦めてはいないようではあったが、さすがにこの状況では為すすべもなく言われたとおりに周囲の魔物を迎撃に向かわせた。  魔物の姿はいまだにあまりはっきりと見られていないが、おそらく四足の獣タイプらしい。黒い影がいくつも命令に従って即座にそちらへ突進していく。  そして男の周りに魔物がいなくなったところで、私は杖を構えて男の向こう側を狙った。 「黄緑の親。遮断壁」  砂が私の足元から乾いた擦れ合う音を立てて舞い上がり、ガムルや男の頭上を通過して、そこで一面に広がる。ちょうど二人と魔物を分けるような状態だ。  風属性と土属性を合わせた魔術。  言ってしまえば砂埃の壁みたいなものだが、視界だけでなく臭いも遮断する。それに砂自体がそこそこ大きいので侵入はなかなか覚悟が必要だし、擦れ合う音によって声などもある程度は遮断できる。ただし屋外では声に関してはあんまり効果はないが。  ともかくこれで男と魔物を分断できた。  脅している状態でガムルが高速移動するよりは、こちらのほうがリスクが少ないだろうという判断らしい。  あとはそのままゆっくりと魔物から遠ざければいい。  多少でも離れてしまえば、仮に呼び戻す手段があったとしてもある程度の時間は作れるはず。  そしてガムルが刀を突き付けたまま男をこちらに歩かせてきた。  魔物と分断された男にはもう抵抗する意思はないようで、顔を強張らせて指示に従った。  とりあえず役目は果たせたようだ。つい安堵しそうになるが、まだ気は抜けない。  男から話を聞かなくては。
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