プロローグ

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ

プロローグ

 魔王がいる異世界の物語ならば、大抵は魔王が悪の親玉だろう。  さらにそこに勇者などと呼ばれる者がいたならば、これもまた大抵はその者が主人公となるだろう。  人間がいてエルフがいて魔族がいて、魔術師や竜人族などがいるような世界でありながら、ここには魔王もいなければ勇者もいないのだという。  そこで私はあるときにいつか自分自身で名乗ることを決めた。自身を魔王であると。  しかしその後しばらくしてそれに応じたように見えた男が名乗ったのは、勇者ではなくなぜか探偵だった。  だがそれでも私の行動に対する一種の反応としてそれがあったのは事実だ。ひとまずは良しとする。  ところがそうして動いた途端に、我々はこの物語を上から見下ろす視点に気づくこととなった。というより、気づかされたと言うべきだろう。  その視点を突き付けてきた奴は、我々の進もうとしていた物語が穴だらけであると言い放った。  そしてそいつはその穴を自分流に塞ぐことで、この物語を乗っ取ることを宣言したのだ。  そうなると、どうなるのか?  世界を守ろうとする者ならば、立場が大きく変わることはない。奴が動くことでヒトが死ぬというのなら、勇者と名乗っていようが探偵と名乗っていようが、物語の主人公は主人公らしく振る舞うだろう。  だが、今や薄っぺらい穴だらけの物語上で、しかも自分自身で勝手に名乗っていただけの、魔王なる存在はどうなる?  良い方向とは限らないにせよ、大事を成し世を動かすであろう悪の親玉はもう他にいる。空からの視点で見れば物語上の魔王など、もはや噛ませ犬にしかならない小物だ。  そう、問題は非常に単純だ。  我々は主人公でも悪の親玉でもなく、ただのやられ役でしかなくなったということ。  だが、それでも私は魔王を名乗り、目的を果たすべく行動をする。やめることは、あり得ない。  ガムル。自分自身の決断で今後も私と行動を共にするというのであれば、これだけは肝に銘じておけ。  我々は、いずれ必ず敗北する。  避けることはできない。忘れっぽいお前のことだが、これだけは忘れてはならぬ。  我々は、必ず、敗北する。  
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!