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魔術師とは行き当たりばったり
《ユニィ》
「計算や計画が無意味とは思わないが、直感や衝動が重要であるタイミングは確かにある」
人垣を後方から眺めていたガムルが、その向こう側まで見透かそうとするように視線を鋭くした。
語り口はいつもと変わらず淡々と落ち着いている印象。しかし戦闘モードに入ると、そこに張り詰めたような緊張感が加わってくる。ちょうど今のように。
「それがなぜ重要かは、そのときにはわからない。後に理由に思い当っても他者からは後付けに思われるかもしれない。だが」
そしてそういうときほど、彼の口数は普段より多くなる。
まだ短い付き合いだが少しは理解が進んできているようで、そのくらいはわかってきていた。
「行かなければならないとその瞬間に思ったならば、行くしかない。そしてその決断をするのは、今しかない。・・・わかるか、ユニィ」
しかし、
「大会主催者を説得しに来てるのに、その人のスピーチが終わる前に刀に手をかけるのはやめたほうがいいと思います」
ガムルはしっかりと右手で刀の柄を握りしめたまま、ようやくこちらに視線を向けた。
「なぜだ」
「危険人物にしか見えないからです」
ちなみに他により危険そうな者が近くにいる、というわけでもない。完全に無意味な臨戦態勢だ。
「闘技大会であるのに、ダメなのか」
「人ごみで急に真剣抜いてたら、そりゃダメでしょうね」
「・・・なるほど。そういうものか」
本当に理解したのかどうかはともかく、刀にかけていた手をやっと放す。
周りにこちらを見ていたヒトは幸いにもいなかったようだ。こっそりと息を吐いた。
「今警戒されてどうするんですか。むしろ警戒されないようにしなきゃいけないんじゃないですか? ガムルの目的から考えたら」
「当然だ。闘技大会に出るのもそのためなのだからな」
だったらもっと考えて行動してほしい。そもそもそれはガムルの目的であって、今のところ私にはたいして関係ないはずなのだから。
「でも仮に闘技大会で勝てても、信用とは別じゃないんでしょうか」
「俺たち魔術師には魔術国家という後ろ盾が常にある。そして他の国にとって、魔術師といえば傭兵だ。魔術国家は信用性を保つために、俺のようなどこにも所属していない傭兵ですら、助手を派遣する」
その助手が現在は私というわけだ。
「つまり場所を把握し、状態を監視し、行動を制限しているわけだ。それは面倒かつ窮屈ではあるが、確かに他国からの信用性を担保するのにはある程度役立っている。まともな相手ならば、後ろ盾としてそれほどの問題はないだろう。ただし信用を得るには当然だが、契約内容も重要だ。さらにその契約を全うする能力があるのかどうか。先に、能力を示す」
そのために闘技大会に出場する、と。
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