やっぱり体力

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 《サリッカ》 『調査はどうなっている?』  居酒屋のテーブル席の向かい側に座っている見た目は人間の若い男が、自称魔王の声で話しかけてきた。  あたしは小皿に乗った単品のいくつかの料理を時折口に運びながらも、普通に会話しているように言葉を返す。 「実動の魔術師のほうも情報は集めてたんだろ? ってことは、街の噂や常識については改めて言う必要はないよな」 『ああ。妖精の噂やワザンドリー商会と商人ギルドの対立については、表面的な話でしかないかもしれないが報告は聞いている』  店内はそれなりに賑わっていて、聞き耳を立てているような奴はいなさそうだ。仮に聞かれていたとしても問題はないが。  何せこっちはそのあたりを専門としてやってる魔術師なのだから。 「妖精については実際に見たわけでもないから何とも言えない。ただ、少なくとも何度も山を探したような動きが過去にあったみたいだな」  いかにも雑談しているように男に話す。男は表情を変えずに口だけを動かした。 『妙に気になる言い方をするな』  その声は表情と合っていない。実際に目の前の男が話しているわけではないためだ。というか、そこにあるそれはヒトですらない。  話している相手は遠方におり、目の前の男は土属性魔術で人間そっくりに作られた泥人形、ゴーレムだ。 「妖精を探したのかどうかもはっきりしないうえに、探していた人員はワザンドリーを含め商人の使いや私兵ってわけでもなく、もちろん軍なんかでもない。どうも危なそうな奴らだったらしいが、それがもし山賊とかだったとしても、雇い主が実は商人だったってことはあり得るだろう」 『何者かが山で何かを、何度か探していたという感じか』  いざ話をまとめられると何ともぼやけた話だ。前の男がほとんど動かない分、こちらが料理に手を付けることになる。なるべく不自然にならないように。まあ、注視されていたら意味ないが。
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