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『先ほどの話での・・・賊の雇い主の可能性もあると』
酒の入ったグラスを傾け、喉を鳴らしてから答えた。
「そこまでかはわからんがね。商人ギルド側だって一枚岩ってわけでもないし、怪しい奴を探せばごろごろいる」
魔王はどう受け取ったのか、考え深げに間を開けて訊いてきた。
『ふむ。・・・周辺に別の魔術師がいるという話はないのか?』
「今のところ一切ないね。ワザンドリーを襲ったときの魔術の属性は火だったらしいが、これもちょっと不自然なんだよな。大抵目立つから」
なんせ火属性には同時に光を放ってしまう魔術が多い。
『魔術の、属性か』
知らないとは思っていないが、相手は魔術師じゃない。一応説明も含めて話すことにした。
「多くの魔術師が扱う属性は二種類。三種類以上使える奴は滅多にいないし、中には一種類しか使えない奴もいる。でも普通の魔術師なら自分の使える魔術の中で、一発で仕留められる目立ちにくい魔術を使おうと考えるはずだろ、暗殺なら。火属性魔術は向いてない」
そこでこれもまた予想通り、反論してきた。
『しかし・・・それはあまり決定的な情報ではないな。ガムルがほとんど風属性魔術しか使えないように、一種類で火のみ扱える魔術師である可能性もあるだろう。あるいはさほど経験を積んでいない魔術師が、威力だけを考えて後先考えずにその魔術を使った可能性も』
ガムルという名前を聞いて、思わず口元が緩んだ。さっきから何度か名前が出ているが、その名前についての噂を思い出したためだ。変わり者で有名で、常に大当たりか大外れを引くという評判だ。
それはそうとして、現時点でのあたし自身の見解を言うべきだろう。
このもやもやした状況は何か不穏な気がする。意味があるのかどうか、そもそも直感が合っているかどうかもわからないが、言うだけは言っておくことにした。
「まあ、そうなんだけどな。だけど考えようによっちゃあ、あえて目立つように襲撃したとも見えるってことだ。さっき言ったけど、結構探っているわりにはこの付近に別の魔術師がいるという話や痕跡は見つかっていない。で、もしそんな奴がもともといなかったとすれば、襲撃は何だったのかって話になる。ワザンドリーの自作自演か、それとも誰かがワザンドリーを狙う魔術師の存在を演出したかったのか。この問題は結構注意しとかないと、見誤ることになるかもな」
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