さかなのみるゆめ

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僕の両親はアルファとオメガだ。だから発情期のこともそれに伴うトラブルの対処法も的確に分かっている。けれど智明の両親は共にベータで、そういう時の知識が乏しかった。ましてや自分の息子が起こし、母親はその現場を見てしまっていた。動揺した母は正しい判断ができず、父親が帰ってくるまで別の部屋で耳を塞いでいたらしい。そもそもそこから初動が遅れ、さらに息子の将来を思って病院に行くこともしなかった。 両親が智明の家に着いた時、僕はまだ意識が戻らずそのまま寝かされていた。それにブチ切れた両親は智明の両親を怒鳴りつけ、急いで救急車を呼んだ。 僕は智明の父親が打った緊急抑制剤が身体に合わず、意識が戻らなかったのだ。抑制剤と言っても種類がある。まだ15歳未満の、それも初めての発情期に使用するには強すぎたのだ。 その後病院で適切な処置を施してもらい、意識が戻るまで入院となった。けれどそんな状態で再びアフターピルを使用するのは危険だと判断され、一度目に飲んだピルの効果に期待するしか無かった。 性交後24時間以内の服用とあるが、時間が経てば経つほど効き目は薄れていく。医師は妊娠の可能性も否定できないと告げたという。 けれど、妊娠の可能性の事を父は僕に言わなかった。それは受験を控えた息子の不安を少しでも軽くしてあげたいと思ったからだろう。起こってしまったことは仕方がない。オメガだったら誰にでも起こりうる事故のようなものだ。幸いうなじを噛まれた訳では無い。早く忘れて気分を切り替え、そして無事に受験を終えて新しい生活をスタートさせて欲しいと父は思ったのだろう。 僕はその通りだと思った。智明の両親とどんな話し合いがあったのかは分からないけど、このことは両家の間だけで収めることになったらしい。もちろん学校にも報告せず、友達も何も知らない。だけど、両親は僕のことを思って受験が終わるまで学校を休ませた。おそらく智明と顔を合わさせたくなかったのだろう。僕もどんな顔をして智明と会ったらいいのか分からなかったので、その通りにした。
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