第一章 一人ぼっちの少女

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 部屋の外から、怒鳴り声が聞こえてくる。  萌香(もえか)は、自分の部屋のドアを少しだけ開けた後、息をひそめた。両親は家にいる時、いつも喧嘩をするか、お互いを無視している。  娘がいる前ではさすがに怒鳴り合いの喧嘩はしないけど、いなくなると、お互いを(ののし)り合う。  「だから、産みたくなかったのよ。  貴方が口を滑らせるから、こんなことになったのよ。責任取るのはそっちでしょ。  引き取るなんてまっぴら。お金なら出すから、そっちで引き取ってよね」  母親の言葉は萌香の心を凍らせた。最低限のことしかしてくれない母親だけど、萌香は嫌いになれなかった。  いい子でいれば、きっと両親は仲良くなって、自分を愛してくれる。そう考えて、萌香はわがまま一つ言ったことはなかった。  でも、その頑張りはなんの意味もなかったと、少女は痛いほど思い知らされた。  そして、父親も変わらないほどの冷酷な口調で、母親に言い返していた。
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