植木鉢葬

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植木鉢葬

 SNSを流し読みしていたら気になる記事を見つけた。マルチシートのはみ出した植木鉢のやわらかそうな黒土。私は植物に詳しくはないのでその種類まではわからないが、なかなか立派な茎の観葉植物のようなものが二歳の子供の背丈ほど育って、波打つ大きな葉をつけている。写真に添えられた記事の見出しには「植木鉢葬」とあった。 「故人の頭を埋めた植木鉢に種を蒔いて育てるんですって」 「ええ〜、怖っ!」  それを見つけたのは会社の人との移動中で、車にゆられながら窓の外の、高架が地面へ帰っていく坂の線を私は眺めている。そばの林の緑をぼんやりと捉え、自分が生首を植木鉢にうずめられたときのことを考えた。その微睡みみたいな思考の安らぎから抜け出せないままだったのでコメントを選ばずに口にのせてしまう。「結構いいですね」  隣に乗っている、私のことを可愛がってくれている年上の女性がさらに懐疑的な声を上げた。そんなこと言うなんて珍しいよね、と言うから普段自分がどれくらい「普通の人」に混じることが出来ているのかをちょっと知る。世間一般の感覚からしたら異常なのだろうと思いはするものの、私は素直にこの弔い方を悪くないと思った。土が気持ちよさそうじゃないですか、と言おうかどうか迷ってやめた。  仕事を終えて恋人と落ち合う。植木鉢葬の話を彼にもしてみると、さいわいなことに、彼の口からも「いいね」という言葉を聞くことができた。そのとき彼はうっすらと微笑んでいた。 「それって、その植木鉢が誰のもとにあるのか、というのも重要じゃない?」  彼に言われて私は初めてそのことに気づく。植物の糧になれるのも素敵だなあというところまでは考えていたけれど、その植物はおそらく持ち主の日々を癒すだろう。  あなたの植木鉢は僕が持っていていいのかな、と彼が言う。手も繋いでいないのに、手錠をかちゃりと左手首に嵌められたような気分になった。空いたもう片方を、あなたの右手首に嵌めるために私はこう答える。 「もちろん」  あなたはある日その植物を育んでいるのが私だと、忘れてしまいそうで怖くなってその土を掘り返してしまわないだろうか。骨になっていたらまだいいけど、そこで見つけるのが蛆の湧いた恐ろしい姿だったりして、私のことを嫌いになってしまわないだろうか。  心配になって聞いてみても彼の答えは「冥府へ迎えに行ったら妻はそういう姿をしているものだから」とそれだけだった。逃げたりしないの?と聞いてもよかったけど、多分あなたは逃げないだろう。冷たい土をもう一度やさしくかけて、その手の温みを土越しに分けてくれるに違いない。それから、傾いでしまった植物にそっと謝って今日の水をやる。  あなた一人きりの住まいに、あなたと私が育む観葉植物がある。私が死んだらそうやってあなたのもとに遺りたい。 (20230423)
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