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かねなが ただし君
「おばちゃん」
「?? ああ? 」
「どうしたの。おばちゃん? 」
真理は目を開けた。小学生ぐらいの少年の顔が目の前にあった。
「おばちゃん? それって私のこと? 」
真理は、寝たまま少年の顔を見て言った。
「おばちゃんしかおらんやないか」
「私は、おばちゃんに見えるか? 」
「うん。……ああ! そうかおばちゃんに、おばちゃんて言われん場合があるんやった。おかあちゃんがいっとったわ」
少年は、ニタニタ笑いながら改めて言い直した。
「おねえちゃん。どうしたの? 」
真理は、上半身を起こして言った。
「おえねちゃんはね。この山の上から一人、悟りを求めて降りて来たの」
「何言っとるん。この上にはホテルしかないでよ。ああ、おねえちゃん振られたんだ。ほんで男の人にほっとかれたんや」
(す、するどい。何だこの子は? )真理は、警戒した。
「ボクは、この近くの子なの? 」
「うん。家はすぐそこじょ。ここに遊びに来ると、ようおねえちゃんのような人が、泣きよったりするんや。いつも同じことを言うでよ」
「振られて男の人にほっとかれたって言うの? 」
「そうそう。そうなんや。ほなけんおねえちゃんもいつものパターンかと思うて」
「そうよ。いつものパターンよ。振られて男の人にほっとかれちゃったのよ! 」
「やっぱり。絶対そうや思うたよ。歩き方でわかったもん。きれいな服を着とる割にはつらそうにあるくんじょ。やっぱりそうか」
真理は、何となくムカついてきたが、少年相手に喧嘩を売るのは大人げないと肩を落とした。そして、少年に言った。
「まあ、横にお座りよ。ボクは、小学生? ボクはここで何をして遊ぶの? 」
少年は、真理にくっつかんばかりに長座になって座った。
「逢坂小学校4年1組。かねなが ただしや。ここにくるんは海を見て気を晴らすためや」
「きみもなにかあったのね。女の子に振られたとか」
真理は、先ほどの復讐と言わんばかりにニコニコしながら毒舌を吐いた。
すると、かねなが ただし少年は、見る見るうちに顔をくしゃくしゃにして涙を流し始めた。(当たりかよ)真理は、急にこの少年がかわいく思えだした。
「そ、そ、そうなんや。振られたんや。おねえちゃんとおんなじや。5年生の美郷ちゃんに好かんって言われたんやあ。わあーー」
かねなが ただし少年は、遂に声を上げて泣き出した。
「おねえちゃんは、好かんとは言われてないけど、まあ状況は似たようなものか。で、年上好みのただし君は何で美郷ちゃんに好かんて言われたのさ」
真理はここは、おねえさんらしく慰めることにした。
「山の中でたまたま蜂の巣を見つけて、蜂の子がゲットできたけん持って帰って炒ってプレゼントしようとしたんや」
かねなが ただし少年は、鼻水もたらして嗚咽を漏らしながら言った。
「蜂の子って、あの蛆虫みたいなやつ? 炒ってどうするの。もしかして食べるの」
「そう。うまいんでよ。やけんど、美郷ちゃん気持ち悪いって。それが美郷ちゃんを驚かす悪戯に思われて、好かんて言われたんや」
「そっか。美郷ちゃんは蜂の子が食べらることを知らなかったんだよ。だからびっくりしたんだ。びっくりさせちゃったことは謝ってさ、蜂の子は食べられることを教えてあげたらいいよ。そうだ、食べらることが書いてある図鑑か何か一緒に見せながらさ。怖がらせたり、驚かせたりするつもりはなかったことをちゃんと言ったら、美郷ちゃんも分かってくれると思うよ」
「そ、そ、そうかなあ~。ぐす。ぐす」
「そうだよ。ただし君が美郷ちゃんを怖がらせるつもりじゃなかったことは、おねえちゃんも今聞いてよく分かったし。ただし君が本当に美郷ちゃんのことを思っているなら絶対仲直りできるよ」
そう言って、真理はポーチからティッシュを取り出して、かねなが ただし少年の顔を優しく拭いた。
「おねえちゃんありがとう。おねえちゃんええ人やな。ここに来る人はなんでか、みんな泣きよるか怒っとるんや。おねえちゃんは本当に悟りを求めて降りて来たんやなあ」
「ははは、悟りねえ。おねえちゃんも本当のことを言うとね、悩んでいることがあるんだ」
「おねえちゃんの悩みって大人の悩みだろ。僕にはわからんでよ。それよりもうお昼じょ。おねえちゃん、家に来てお昼ご飯を食べて行きなよ」
そう言って、かねなが ただし少年は立ち上がると、真理の腕を引っ張った。真理は、素直に立ち上がり服に付いた芝を払いながら言った。
「おねえちゃんみたいな人が行ったら、お家の人がびっくりするよ」
「いける、いける。ここで泣きよるおねえさんは大概お昼を僕の家で食べることになっとるんや」
「へえ。そうなんだ。じゃあおじゃましようかな」
かねなが ただし少年は、真理の手を取った。よく見ると目がクリクリっとした可愛い顔をしている。
「君は、将来イケメンになるよ」
真理は言った。
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