接近

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 日直の仕事は、まず職員室まで出席簿を取りに行くことから始まる。いつもより少し早い時間に校門をくぐった久我は下駄箱で靴を履き替えると、そのまま職員室へと向かった。 「おはようございます」 「あぁ、久我。おはよーさん」  担任である年配教師が気怠げに挨拶を返す。そうして出席簿を渡すと、そうそう、と思い出したように久我に告げた。 「楠なんだがなぁ、さっき欠席の連絡が来てな」  楠とは、今日の日直を一緒にやるはずだった女子生徒である。 「だから適当なやつ捕まえて手伝わせていいぞ」 「あ、はい。わかりました」  そう答えて、久我は職員室を後にする。教室に向かいながら誰を道連れにしようかと、友人の顔を一人ずつ思い出していた。しかし快く引き受けてくれそうな友達がいのある奴はいない。  階段に向かう途中に、また下駄箱の前を通る。何の気なしに自身のクラスの下駄箱を見ると、ひとりの男子生徒がちょうど靴を履き替えているところだった。その大きな後ろ姿に、久我の胸がドキリと高鳴る。  その男子生徒は、熊谷宗一。久我が密かに思いをよせる相手だった。熊という名に負けない大柄な身体。少し吊ったような目と引き締まった口元が、きりりとした雰囲気を出している。スポーツでもしているのか、硬そうな黒髪は短い。華奢な久我と並ぶと、まるで大人と子供と評されるほど正反対の二人だ。   久我はといえば、色白で目も口も大きい。くせ毛気味の髪は自由に跳ねて、久我はおでこが丸見えになるのをよく気にしていた。 「……、おはよう」  熊谷と目が合ってしまい、久我は小さく手を振ってそう言ってみる。それに少し戸惑いながらも、熊谷も手を上げて挨拶を返した。その瞬間、久我の頭にある考えが浮かぶ。久我と熊谷は出席番号が近い。それを利用して、今日の日直を一緒に出来ないだろうか。そうすれば、一緒に居られる機会が多くなる。  そこまで一気に考えたのだが、いかんせんそれを言う勇気が足りない。久我は一年の時から熊谷を知っているが、熊谷は二年に上がって初めて同じクラスになったのだ。しかもまだ一か月弱しか経過しておらず、その間に積極的に話かけたりもしていないので二人はただのクラスメートという関係性。
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