終章

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 彼女はボストンバッグの中を探り、封筒を取り出した。そしてそれをすっと僕の方に差し出す。表面には住所と『小野寺桃香 様』と記載してある。封筒を受け取った僕は、それを裏返してみる。そこには胡桃の名前が記されていた。僕は封筒から手紙を取り出して目を通す。そこには胡桃が桃香の実の母親であることのほかに、どういう経緯で桃香が生まれたのか、桃香を里子に出すことがどんなに辛かったかというようなことが書き連ねてあった。そして最後に、僕あての手紙に記されていたのと同じように、八月一日に直方駅で待っていると書かれていた。  僕が手紙を返すと桃香はそれを丁寧にボストンバッグの中にしまった。 「私には実のお母さん……胡桃さんの記憶が全くないんです。あの、胡桃さんって、どんな人でしたか?」  彼女が言った。 「とても可愛い人でしたよ。そしてきっと今も」  僕がそう答えたとき、もうすぐ直方駅に到着すると車内にアナウンスが流れた。窓の外に目をやると、懐かしい景色がそこに広がっていた。
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