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電車を降りた僕と桃香は改札口を抜ける。駅はすっかり改装されていて、僕の知っている直方駅とは完全に装いが異なっている。もう、僕と胡桃が知っている直方駅はそこになかった。僕たちは階段を下りて、駅前へと出る。僕が高校生だったころに比べると、駅前はひどく閑散としていた。商店街の方に目をやってみても人の姿はない。
僕と桃香は二人で辺りを見回した。すると桃香が、「あそこ!」と言ってバス停の方を指さした。彼女が指さした方に視線を向けると、バス停のベンチに腰を下ろしている一人の女性が目に入った。それを見た瞬間、僕の足は勝手に女性の方に向かって駆け出していた。後ろで桃香が「待って!」と言うのが聞こえたが、僕の足は止まらなかった。そして僕は女性のそばまで寄って足を止めた。女性がゆっくりと顔を上げて僕を見る。たしかに高校生のころにはなかった小皺や白髪があるのがわかる。だけど、それは間違いなく胡桃だった。そして、四十歳になった今も、胡桃は相変わらず可愛かった。彼女は年相応の可愛らしさを纏っていた。
「胡桃!! 胡桃なんだよね!?」
僕がそう言うと、胡桃はゆっくりと立ち上がった。
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