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 此下(このした)は死ぬことにした。  理由はどうだっていいのだ。死にたい理由なんてない。最低限の収入があり、無難な上司と同僚と、無難な友人関係。家族中も平々凡々悪くない。自分の容姿も、能力も、まあこんなもんかと思う。  死にたい理由はない。  だが、生きていく理由もないのだった。  どうしてこうなってしまったのだろう、と今まで何度も考えた。彼の人生には特別な悪いことはなかったはずだ。いいことも、なかったけれど。  ただ、何気ない毎日の中で少しずつ神経を擦り減らし、気が付いたらこんな風になってしまった。  職場の人に言われて心療内科を受診した。抑うつ状態と診断され、抗うつ薬を処方された。  此下が一人暮らしで、休日に誰かと話したり外出することがないと聞くと、主治医は流行りのブリングアップAIを購入するよう勧めてきた。 『おはようございます、此下さん。よく眠れました?』  購入したその日から毎日、彼の朝はAIからの挨拶で始まるようになった。
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