三十 尾行

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三十 尾行

 田村に連絡したあと、佐介はM大の裏門に近いコンビニの二階にある喫茶店にいた。 「あれだね・・・」  佐介は声をひそめた。歩道から裏門へ歩く田村が見える。  田村の家は本町一丁の外れにあり、M大の裏門に近い。合成化学科も裏門近くにあり、正門から合成化学科へ行くより、裏門から行く方がはるかに近い。  佐介の相向いの席にいる葉山刑事がささやく。 「田村は午後六時から家庭教師に出かける。正門から出てくるはずだ。正門側の喫茶店で待ちましょう」 「炉端焼き・里子へ行くとすれば、その時か、家庭教師の後だな・・・。  出ましょう・・・」  佐介もそうささやいた。  葉山刑事は会計をすませ、佐介とともに店を出た。  外へ出ると葉山刑事は野本刑事に連絡した。 「学内に入れないので、正門側で見張ります」 「戸田雄一も学内にいる。田村省吾といっしょだろう。  田村省吾が家庭教師へ行く頃を注意して監視してくれ」 「わかりました」 「飛田さんもいっしょだな。田村省吾が出てきたら、離れて監視してもらえ。  飛田さんは長身だから目立つ。私がそう言ってたと伝えてくれ。  炉端焼き・里子はまだ開いていない。尾田ノリコはもうすぐ店に入るはずだ」 「了解です。正門前で待機します」  葉山刑事は通話を切って、野本刑事の伝言を佐介に伝えた。 「そういうことですから、離れて行動してください」  佐介は仕方なく承諾した。  午後五時すぎ。  正門前の喫茶店から、正門の向こうに田村が歩いて来るのが見えた。もうすぐ正門にさしかかる。 「出ましょう。会計頼みます」  葉山刑事が飲み物の代金をテーブルに置いた。佐介がそれを持つ間に、葉山刑事は喫茶店のドアへ歩いている。  会計をすませて佐介は店を出た。佐介は葉山刑事との距離を保って歩いた。佐介の二十メートルほど先を葉山刑事が携帯で連絡しながら歩いている。野本刑事に連絡しているのだろう。その二十メートルほど先を田村が歩いている。すでにM大前のバス停を通りすぎて本町一丁目方向へ進んでいる。  佐介の携帯が真理からの着信を知らせた。 「はい、佐介だ」 「一人、そっちへ行ったぞ。のこりは実験をつづけるらしい」  と真理が声をひそめて言った。 「一人確認した。うまく学内に入れたな」 「ああ、間宮さんの姪がここの学生で、その娘を訪ねたんだ。図書館の上で話して、合成化学科を見てたさ」  真理は間宮香織刑事に同行している。  佐介が真理の話を聞く間に、葉山刑事は本町一丁のバス停へ歩いて行く。佐介は葉山刑事の後を追った。  真理がさらに声をひそめた。 「さっき戸田雄一と青山和志が、夕飯らしい物を買って実験室へもどってったさ。  アイツら仲いいぞ。田村が話したことや、野本刑事が青山和志から聞いた話はウソだな」 「田村はバスに乗らず、一丁目方向へ歩いてる。  家庭教師の前に炉端焼き・里子に寄る気らしい」と佐介。 「もうしばらくしたら、正門前へ移動する」と真理。 「了解」  佐介は通話を切った。
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